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教育普及グループ的な企画展の楽しみ方@古代アンデス文明展②

教育普及 2019.04.28

 ただいま開催中の「古代アンデス文明展」は、博物学的史料で解説も多い。しかし教育普及グループ的視点で楽しむには、目の前のモノをいかに楽しむかに終始する。さらには、視るためのきっかけも欲しい。前回のブログでは、動物と視線を合わせることをおすすめした。今回は、展覧会を視るためのきっかけとして、色の観点からおすすめしたい。

 展示室を歩くと、鮮やかな色の布が展示してある(刺繍マント/パラカス文化/紀元前300年~後200年頃)。ひときわ目立つ、大きな布。近寄ると何やら不思議な模様が織られている。解説によるとミイラを包む布で、「空飛ぶ人間型神話的存在」なるものが織られているという。確かによく見ると、王冠らしきものを被った人が、手には鳥を持ち、しかも翼まであるように見える。鳥人間?空に対して憧れが強い?このまま纏えば空が飛べる?宗教的な意味が窺える。オシャレなデザイン!と思う人も多いのではないだろうか。
 展示室にはチュニックと呼ばれる丈が長めの上着もある(つづれ織りのチュニック/ワリ文化)。かなりカラフルでうらやましい。布は素材と技法からみるのも楽しい。つづれ織りは経糸を手で拾い上げながら緯糸で絵や文様をあらわす方法で、制作には根気が必要だ。しかも使っている糸は、ラクダ科の毛が使われているらしい。
 日本での動物繊維といえば絹(シルク)だが、獣毛を使った布は、明治に入る前は南蛮貿易ぐらいでしか、手にすることも眼にすることもできなかった。しかし動物性たんぱく質は鮮やかに染まる。このラクダ科の毛もとても鮮やかだ。多色に染められた美しさと同時に、2000年近く前の色に心奪われる。こんなにも鮮明に残っているとは、どういうことだろう。よほど保存状態が良かったのだろうか。紫は貝紫が考えられるし、青系は藍、赤はコチニール、あるいは茜だろうか。染織を専門としている身としては気になるところで分析もしたくなるが、ここでは純粋に色・模様を楽しみたい。

 展示品の中、頭蓋骨とマスクが隣り合わせに並んでいる。シカン文化の「ロロ神殿「西の墓」の中心被葬者の仮面」とある。神に変身するために用いられたのだろうか。頭蓋骨は赤い。この赤を視ると、どうしても展示ケースの前でしばし止まり、凝視してしまう人は少なくない?いや、怖くて近寄らない人もいるだろう。頭蓋骨ではなく、赤という色に注目してみよう。2階のアトリエ前に展示してある教材ボックスを見ると、赤い色材としての鉱物がある。そのなかの辰砂は、水銀朱。水銀朱は死者を埋葬するときに古墳に敷き詰めた。藤ノ木古墳(奈良)が有名だ。大分県にも日田市の吹上遺跡の遺骸に水銀朱を使っていたとの報告がある。赤は生命の色。この思想は地球の裏でも同じだった。頭蓋骨とマスクに塗られた水銀朱の色は、限りなく鮮明で怖くもある。

 展示されているモノは資料なのか、史料なのか、それとも作品なのか。展示物が生活にまつわるモノだと、展示場所が博物館なのか美術館なのかにより、見せ方の違いは大きく変わるかも知れない。工芸やデザイン、あるいは応用美術・装飾美術は、どこに、そしてどのように展示されるのか。展示する人間の手腕が問われるところだが、あまり難しいことは考えずに、色や形など、目の前に広がる世界を楽しみたい。
 

大分県立美術館 教育普及グループ 主幹学芸員 榎本寿紀