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OPAMブログ

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大分のアート立国、文化リテラシー物語  その八

寄稿 2013.12.23

新見隆さんのドローイング作品

新見隆さんのドローイング作品

 師走に入って、街角にはクリスマスイルミネーションがともる季節になった。

 キリスト教の教会暦では、11月は万聖節を中心に死者の月であって、日本の盆のように皆墓参りをして祖先を弔う。畏敬するケルト学者の鶴岡真弓さんによると、米国で広まったハロウィーンはまさしく、古代ケルトの人々が、死者たちが地下から再び地上に舞い戻って、私ども生者を元気づける、その古い信仰に由来するものだという。

 12月に入ってから、今度はキリストの生誕を祝うクリスマス、つまり「キリストのミサ」を迎える待降節で一年が改まり、新しい暦が始まる。

 クリスマスには、聖ニコラウスが、サンタクロースになってトナカイの引くソリに乗って、子どもたちにプレゼントを持ってやって来る。

 フランスの偉大な人類学者マルセル・モースや中沢新一さんによると、これも古代ケルトの人々の故習、「冬祭り」の変形であるそうだ。スイスやオーストリアなど中欧には、冬の霊や死者たちの霊が異形の姿で現れて、子どもたちを追い掛けたりしながら、村人たちに贈り物をもらったり、子どもたちにプレゼントをあげたりする祭りが多くあるようだ。

 学生たちとは、クリスマスの中には、意外にもアートの本源を解き明かす人間の物語が隠されているのではないかと議論することがある。

 僕らユーラシアのモンゴロイドの例でいえば、カナダのブリティッシュ・コロンビアのインディアンの風習。「贈与礼」と確か一般には訳している「ポトラッチ」などが挙げられる。部族が部族を訪ね歓待を受けると、訪ねた部族はプレゼントを持っていくのだが、宴の最後に一番高価で大切な手の込んだプレゼントを、皆の見ている前で火にくべて燃やしてしまうそうだ。これは神とか宇宙へのささげ物という意味だろう。

 クリスマスに隠された古代ケルトのプレゼントも、ユーラシア人やモンゴロイドの仲間であるカナダのインディアンの「ポトラッチ」も、等しく見えない異界、それを死者たちと言おうと、宇宙の魂や神と言おうと構わないが、そういう人間を超える存在と何とかつながりたい、つながっているという人間本来の欲望と深い自覚の表れだろう。

 アートの根源にこの「宇宙とつながるための贈り物」という意味が潜んでいることは、ミュージアムそのものが未知の世界からのプレゼントなのだということだと思う。だからミュージアムというのは、毎日がメリークリスマスなのだ。

 大分の皆さんに年の瀬になったので「メリークリスマス!宇宙生命とつながるミュージアムというプレゼントを一年365日どうぞ!」と言いたいと思う。

 
 新見 隆(にいみ りゅう)
 県立美術館長
 武蔵野美術大芸術文化学科教授
大分合同新聞 平成25年12月23日朝刊掲載