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「坂茂建築展-仮設住宅から美術館まで」 第1回

展覧会 2020.04.26

坂 茂氏が寄稿
新型コロナ対策の避難所 間仕切りで飛沫感染防ぐ

大分県立美術館は「坂茂建築展~仮設住宅から美術館まで」を開催する(新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言を受けて開会を24日から5月7日に変更予定)。展覧会開催を前に同館を設計した世界的建築家で建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞した坂茂氏が、これまでの活動や展覧会の見どころについて文章を寄せた。次回からは県立美術館の学芸員が紹介する。
 

これまでの活動や展覧会の見どころについて文章を本紙に寄せた坂 茂氏

これまでの活動や展覧会の見どころについて文章を本紙に寄せた坂 茂氏


大分県立美術館開館5周年を記念した私の展覧会は開催が延期になりました。このような時期にもかかわらず、中止でなく開催に向けて努力をしていただいた県や美術館関係者の方々に心より感謝をさせていただきます。

今回の展覧会のサブタイトルとして「仮設住宅から美術館まで」と付けました。それは1995年の阪神淡路大震災で被災したベトナム人難民用の仮設住宅(神戸市)の建設から始まる世界各地でのさまざまなボランティア活動や、美術館まで設計するようになった現在までの過程を見ていただきたいと考えたからです。

展覧会ではそのプロセスを大人から子ども、建築に興味のない方まで分かりやすく、楽しんでいただけるように工夫しています。一般の人が理解しづらい建築の設計図を楽譜のように展示するのではなく、大きくて精密な完成模型や、由布市ツーリストインフォメーションセンターや竹田市のクアパーク長湯も含む実物大の部分試作品を展示します。本物の仮設住宅などの災害支援プロジェクトについては美術館1階の大きなアトリウム空間で無料で公開します。

災害支援プロジェクトの一つに地震や台風の被災地の避難所でプライバシー空間を確保するために設営する紙と布でできた間仕切りシステムがあります。これは2011年の東日本大震災の避難所で初めて設置し、以後、全国の被災地で設営しています。それまでの避難所は、家族間のプライバシーはまったく配慮されず、特に女性は避難所に移らずに車中泊をし、その結果エコノミークラス症候群で亡くなる人もいました。その改善に役立っています。

もし今大地震が起きたら、どういうことになるでしょうか? 政府は30年以内に南海トラフ巨大地震が発生する確率を70~80%と発表しました。つまり、いつ地震が起きてもおかしくありません。この新型コロナ禍の最中に避難所に入ることは、クラスター感染が起こる可能性が高まります。
そこで間仕切りシステムが飛沫感染防止に有効であることを感染症専門医にお墨付きをいただき、クラスター感染が起こらない避難所の準備を始めました。まずは4月10日の緊急事態宣言以降に閉鎖されたネットカフェから出た人のために神奈川県立武道場にこの間仕切りを設置しました。
大分県とは16年1月、私が運営するNPO法人「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク」と間切りシステムの設置の防災協定を結び、熊本・大分地震のときに使われた間切りを備蓄していただいています。

建築家は歴史的にも現代においても政治力や財力を持った特権階級の人たちのためにモニュメンタル(記念となるような)な建築を設計し、権力や財力を社会に示す手伝いをしてきました。もちろんそのような建築が、市民に愛され街のシンボルとなれば最高の成果であり、大分県立美術館もそうなることを願っています。しかし建築家はモニュメントをつくるだけでなく、避難所や仮設住宅の住環境を改善することも重要な役割だと考えます。

最後に、県立美術館の大きな特色として、国道197号側の壁を開閉できるガラスの水平折り戸にし、開放的で皆さんが集まる縁側空間になるようにしています。今回は会期中に水平折り戸を開く予定にしています。密室的美術館ではなく、自然換気され、春から初夏の気候に適した街に開かれた美術館として皆さまをお待ちしています。

▽坂茂建築展の観覧料は一般千円(前売り800円)、大学・高校生700円(同500円)、中学生以下無料。5周年記念事業などのイベントは新型コロナウイルス感染拡大防止のため、延期。日程は未定となっている。

神奈川県立武道館に設置された紙と布でできた間仕切りシステム
神奈川県立武道館に設置された紙と布でできた間仕切りシステム


大分合同新聞 令和2年4月25日掲載