文字のサイズ
色変更
白
黒
青

OPAMブログ

印刷用ページ

大分のアート立国、文化リテラシー物語  その十九

寄稿 2014.11.17

 さあ、いよいよ県立美術館(OPAM)の落成である。23日からの誕生祭の8日間は、来年4月のグランドオープンに劣らず、楽しみが満載だ。

 先日、大分市出身の世界的バレエダンサーの首藤康之さんが、武蔵野美術大の僕らの芸術文化学科に来てくれて、学生たちにレクチャーをやってくれた。さすがに世界で修業を積んだ一流のダンサーだけあって、「身体を武器にしている」プロの身体呼吸感覚に場内ピンと張り詰めた空気で、学生たちも息をのんで彼の話に聞き入っていた。

 そこで僕と首藤さんが話したのは、もともとアートとバレエやダンスなどの身体芸術は同時代の精神を呼吸しながら、互いに強い影響を与え合っていたということだ。

 例えば20世紀前衛バレエを開拓したロシア・バレエ団では、作曲家ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」に、新しい振り付けをやろうとしたのがニジンスキーだ。彼はプロデューサーのディアギレフに、ルーブル美術館にある古代ギリシャのつぼに描かれたニンフ(妖精)たちの踊りを見に連れて行かれたそうだ。

 それでニジンスキーは触発されて、画期的なバレエを振り付け、その上演を見た彫刻家のロダンは、ニジンスキーのヒョウのような動物的動きに感動して、新しい彫刻をつくった。そういう創造的な連鎖が、新しいOPAMでも生まれてほしい、生み出す予定だという話だった。

 実は、今回の県立美術館のオープンに合わせ、首藤さんが坂茂さん設計の新生OPAMの建築空間を舞台に踊って、まさに「踊るミュージアム」というプロモーションビデオを作ろうという話の下準備のトークだったのである。

 今回の坂さん建築の特徴は、木がふんだんに使ってあり、それがシャープで透明感あふれる彼の空間に、ユニークで温かみのある味わいを与えているということだ。竹編みを思わせる正面からの3階部分もそうだが、3階の空に抜けた吹き抜けのガラスの庭「天庭」の周りも独特な木の風合いを醸し出している。

 その「天庭」に現代日本を代表する3人の工芸作家に作品を常設展示してもらう予定である。一人は徳丸鏡子さん。彼女は地から生えて踊るような、大きな花そのものが咲き乱れるような白い陶器の彫刻を持ってきてくれる。「日本において工芸とは、古来人間の生きる営みを祝福する『言(こと)祝(ほ)ぎ』だ」というのが彼女の制作信条で、僕はこの言葉に心底ほれ込んでいる。

 もう一人は、ミラノと東京を往復しながら意欲的に制作していたが、昨年秋に急逝した礒崎真理子さん。彼女のカラフルで大きな植物の茎や葉、花のようなユーモラスでドラマチックな造形も見ものである。

 最後は現代日本のスタジオ・ガラス、殊に吹きガラスの第一人者である高橋禎彦さん。彼のガラス造形はジャズ音楽の軽快で風のような軽やかさ、そうした自在さを持っているのが特徴。彼は新作をスペースに合わせて吹いてくれている。

 「天庭」は3人の共作になる。手技と素材感を併せ持った工芸、工芸でありながらそれを超えた豊かな彫刻空間、そして五感の交わる楽しさ満載の庭となる。

 実は彼ら3人の師匠格の、戦後の日本の現代陶芸をリードし続けてきた大巨匠に今回のOPAM誕生祭に登場いただくことになった。グローバルな「東京焼」を引っ提げて、新県立美術館にエールを送ってくださる中村錦平さんである。23日からのOPAM誕生祭にぜひお出掛けください。


 新見 隆(にいみ りゅう)
 県立美術館長
 武蔵野美術大芸術文化学科教授

大分合同新聞 平成26年11月17日朝刊掲載

徳丸鏡子「四大エレメントより・火および水」(2007年、大物用磁土) 礒﨑真理子「Untitled-Tms5」(2005、陶、26 x 25 x 22 cm) 高橋禎彦「とろけること」(2010、ガラス、20 x 18 x 12 cm)
徳丸鏡子「四大エレメントより・火および水」(2007年、大物用磁土) 礒﨑真理子「Untitled-Tms5」(2005、陶、26 x 25 x 22 cm) 高橋禎彦「とろけること」(2010、ガラス、20 x 18 x 12 cm)