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OPAMブログ

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大分のアート立国、文化リテラシー物語  その三十五

寄稿 2016.03.21

全速力、無我夢中で突っ走った開館1年目が終わりに近づいた。2年目をどう動かしていくのか、「常に変化するミュージアム」として、準備にいそしんでいるところだ。
2年目のラインアップを見た皆さんから、「ちょっと分かりにくい」という意見を聞く。目標は「ミュージアムの枠組みをいかに大きく広げて挑戦できるか?」ということに尽きる。定番といわれる「絵画や彫刻」的な展覧会、大分が誇る名画名品のコレクションを十二分に楽しんでもらうことは押さえてある。
けれども「五感や出会い」というからには、音楽やライブ、詩、短歌、現代アート、写真、気鋭の作家に特別につくってもらった大作の披露など、通常のミュージアムではあまり多く見られない、「驚きの仕掛け」を提供したい。ミュージアムの姿を変化させたいというもくろみだ。
4月8日からの「シアター・イン・ミュージアム」は、昼間には日本の古代イメージや風景風土を追った現代写真を中心とした展覧会。金、土、日曜と祝日の夜にはコンサートを開く2部構成。前衛パンクやロック、ディスコやクラブのサンプリング音楽などのライブを満載した内容である。
6月11日からの大分発、「生への言祝(ことほ)ぎ」展では、12人の現代作家が大きな立体インスタレーションを披露する。さらに主にウィーンから招く「肉体派」のパフォーマンス作家4人による、大分のそれぞれの土地に滞在して着想を得たパフォーマンスとワークショップがある。
薫陶を受けた昔の上司が口癖のように言っていた。
「1960年代に俺が初めてニューヨークに行った夜、ニューヨーク近代美術館の中庭で、ジャズの巨匠マイルス・デイビスのコンサートがあったんだよ。老若男女、館内満員でごったがえして、外の街路にまで人があふれて、興奮のるつぼだったなあ。すごい一夜だった。こんなことが日本でできたらいいなあ」
経緯は省くが、その私淑した上司の宿願が僕の遺伝子を通過して、大分に生まれようとしているわけだ。
館内のマスコット的存在になったマルセル・ワンダースの「卵バルーン」や須藤玲子さんの紙布シャンデリア、ミヤケマイさんの西壁の「大分観光壁」、3階天庭の工芸作品による「花畑」は6月をめどに大きな模様替えを予定している。
坂茂設計によるOPAM(県立美術館)建築の呼び物でもある、正面水平折り戸の開放も含めて、ギャラリー展示室の展覧会とは別の企画で、巨大アトリウムに集っていただきたい。
その企画名は仮に「OPAMアート・マルシェ」と考えている。現代作家の工芸やファッション、ジュエリーの展覧会と即売会の小コーナーを毎月1週間程度アトリウムに設けて、作家がレクチャーをする。
1回目に招請したいと思っているのは、2年前に亡くなった帽子デザインの巨匠、平田暁夫先生のアトリエを引き継いでいる長女の石田欧子さんである。パリと東京・青山での個展後、6月末から登場する見通しだ。竹や焼き物、ガラスなどは大分の作家にも出てもらいたい。
西壁前広場では「OPAM食の文化祭」と銘打ち、梯哲哉シェフら県内の料理人でつくる「食ラボ大分」などと組んで、定期的に開放していく計画もある。魅力満載の2年目である。

新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大芸術文化学科教授

 大分合同新聞 平成28年3月21日朝刊掲載

6月末から帽子作品を披露する予定の石田欧子さん 石田欧子「Chasing Cristóbal Balenciaga II(バレンシアガを追ってⅡ)」=撮影はともに浅井佳代子
6月末から帽子作品を披露する予定の石田欧子さん 石田欧子「Chasing Cristóbal Balenciaga II(バレンシアガを追ってⅡ)」=撮影はともに浅井佳代子