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OPAMブログ

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「アートも食も」 県立美術館長の大分ビーナス計画 その七

寄稿 2016.10.08

本年度コレクション展第4期「フランス絵画とともに」のチラシ

本年度コレクション展第4期「フランス絵画とともに」のチラシ

7日から、県立美術館(OPAM)で本年度コレクション展第4期「フランス絵画とともに」が始まった。ぜひ多くの方々に見ていただきたい。しかし、意外なことにコレクション展は「中学生以下無料」というのが県民の皆さんに知られていないようなので残念だ。
ちょっと前までは、「美術館=ミュージアムに入ると、それだけで入場料を取られる」という笑い話のような誤解もあったようだ。実際には企画展などは別にして、アトリウムやショップでの買い物はもちろん、カフェ利用も自由なのだ。
夏休みに例えば「髙山辰雄賞ジュニア美術展」などで自分や友人、知人の作品などを楽しんだ小中学生は多かったわけだが、その皆さんが案外、コレクション展を見るために3階に上がるとまではいっていない。
さらに言うと、多くの団体や個人の方々には積極的に新生OPAMの素晴らしい、気持ちの良い空間を日々利用してもらっている。ただ、作家はもちろん、友人、知人の作品を見に来た観客の皆さんがこれまた意外なことに「ついでにコレクションを見て行こう」と思われていないようなのだ。
こういうことで良いのだろうか?口幅ったい言い方で恐縮なのだが、そういうことで県民のために建てられた新美術館を利用したと果たして言えるのだろうか?われわれの宣伝不足も含めて、何とかしなければと考えているところだ。
県立美術館は年間6回、実に2カ月に1度はテーマを変え、展示を大いに工夫した「コレクション展」を企画展と同じ精力で開いている。これは全国の公立美術館でも類例を見ない取り組みだと胸を張っている。
前回の「伝統と革新」という、表現における作家たちの果敢な挑戦を対比的に展示する意欲的なコレクション展からは、学芸員による専用のギャラリートークを始めた。
僕は県立美術館のコレクション展は、大分の文化的スピリットの中核であるべきものと考えている。企画展については好みに応じて選んでいただいて当然だ。だけど、これほど素晴らしいコレクション展を毎回見ることができるのは、県民だけが享受できる特権であり、これを見過ごすことは大きな損失にも思えるのである。
大分県は、1977(昭和52)年の旧県立芸術会館開館以来、実に5千点を超える美術品を収集してきた。大分の文化風土は実に豊潤であって、輩出した作家群を見ても、絢爛(けんらん)豪華ではないが、淡麗で憂愁に満ちた、浪漫的風土、つまり大分県人の哀愁の分かる深い味わいの人間性に通じるものばかりである。
豊後南画のリーダー田能村竹田から始まり、近代彫刻の基を築いた朝倉文夫や日名子実三、「自然描写を軸に心の抽象を描き抜いた」近代日本画革命児の福田平八郎、人間存在の深みに挑んだ髙山辰雄、さらには「東洋的仏教的抽象」を開いた日田の宇治山哲平、そして竹の名匠生野祥雲齋。その情緒の広がりと精華は枚挙にいとまがなく、果てしなく広くて深い。
それらのスピリットの継承が、例えば現在開催中の県美術展のように、他県では見られない「ものづくり」の盛況を生んでいることは論をまたない。
今回の「フランス絵画」とは、佐伯市の南海医療センターが患者の心を和ませるために購入し、展示していた優品を意味している。ピカソやキスリングらいわゆる「エコール・ド・パリ」を主体とする作家の作品群であって、この中から一昨年に県の財産として購入された。
昨年は洋画コーナーに一挙に並べて楽しんでもらった。今回はやや「エコール・ド・パリVS大分作家」という、変わった趣向でたっぷり味わってもらおうと思っている。
それもOPAMの基本思想である「出会いのミュージアム」、変化する美術館像を順守した試みとなっているのである。

新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大芸術文化学科教授

 大分合同新聞 平成28年10月8日朝刊掲載