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OPAMブログ

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皆の大茶会、私の大茶会

寄稿 2018.11.01

圧倒的な名演だった。
 十月最後の日曜の昨日、僕はiichiko文化センターで行われた巨大イタリア・オペラ「アイーダ」の高揚した余韻のまま、家内とカモシカ書店の岩尾晋作君をともなって、竹田に赴いた。
二年前に竣工した、気持ちの良い、竹田市の図書館の空間で気持ちの良い空間で、陶芸、書、篆刻、絵画などさまざまなジャンルで活躍した北大路魯山人について話した。これも、地域茶会の一貫だ。気鋭の鉛筆画でますます深化する関根直子の委嘱作品に再会したのも、僥倖だった。
 この日は恒例行事で人気の高まる「竹田アート&カルチャー」のクロージングのパーティーは、中心作家として若手皆を引っ張って来た、加藤享君、児玉順平君のユニット「オレクトロニカ」のアトリエを会場に開かれた。
ユニークな木の人型彫刻で知られる二人のアトリエが、地場ミュージアムだなと思われるほど、地場ミュージアムだなと思われるほど、地霊(ラテン語で「ゲニウス・ロキ」)そのものを生かして、二人が十全の呼吸で甦らせている。場と人間の、土地と現代の一体感が凄い。素敵なケータリングは新鋭イタリアンの桑島孝彦君と、県道筋でお昼の食堂をやっている畑来実世さんが担当した。
 圧巻は、椎茸の保存倉庫だったという、白い祠の深い空間に、縦横に板材やら帆布や和紙を使って、帆船の竜骨的空間に自作の人がた彫刻を置いた二人のインスタレーション。何と、「ファド」というポルトガルの地唄を、キリシタンの地唄に自在に組み合わせた、即興アカペラを歌った、松田美緒さんとのコラボレーションが“眼福プラス聴福?”だった。彼女は、大分の民謡、古歌も採集しているという。何と、僕の大好きな作曲家、ベラ・バルトークの再来か!
私事だが、10月25に還暦誕生日を迎えた僕は、(東京で暮らす)女房孝行を思い立ち、大分に伴った。旅は(今はそう限らないし、そうであってはならないが)僕ら旧世代の女性には、家事労働から解放される、ご褒美だ。大分は今や「文化ツーリズム」大国。カモシカで「大分新見ゼミ」をやって、料理建築家宮川園ちゃんの、スパイス料理で祝ってもらい、鉄輪の名匠梯シェフには、話題の(「今日の料理」に出たのでね)、イタリアン風「りゅうきゅう」や「鶏天」をご馳走に。
 竹の巨匠、マエストロ生野徳三先生宅に、竹工芸の展示についての打ち合わせで伺った。先日の杵築で催された江戸千家茶会の模様や、悶絶逸品揃いのしつらえのいろいろを見せてもらった。(日展の審査で僕は東京にいた。)たいへんなご苦労された準備でもあっただろうが、先生が「これが、わしの『大茶会』だったよ」と漏らされたことが印象的だった。
 新鋭バッティストーニの「アイーダ」から、竹田のファドまで、それぞれの「大茶会」、皆の、さまざまな「大茶会」が今や全県に拡がる。規模や人数の問題じゃ無い。そうやって、大分の文化立国は、たちあがってゆく。

新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大学芸術文化学科教授