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大分のアート立国、文化リテラシー物語  その十六

寄稿 2014.08.25

県立美術館1階アトリウムのマルセル・ワンダースによるデザイン構想図

県立美術館1階アトリウムのマルセル・ワンダースによるデザイン構想図

 先日の記者会見で、やっと来春の県立美術館グランドオープンの日程とオープン展の企画内容、それから今秋の美術館完成に合わせての建物のお披露目、関連する企画内容を発表することができた。

 僕が主張したのは、県立美術館のテーマ「出会いのミュージアム」「五感のミュージアム」の根幹にある思想は「神話の再創造」であるということだ。それがこれからのミュージアムを考える上で、僕は「最も重要なこと」だと思っているし、あらゆる文化施設や地域おこしを狙う芸術祭やアートイベント的なもの全てに言い得る「必要不可欠なこと」だろう。神話とは文化や歴史のことで、作家やデザイナーがそれと深く関わること、その地霊から影響を受けた、あるいはその影響を引き出す作品を現代形で住民、観客に提案しないと意味がない。しかもそこには、住民参加型の仕組みがあってほしいというのも、言うまでもないのだろうけれど。

 今回のグランドオープンで美術館1階アトリウムにおける世界トップデザイナー対決、マルセル・ワンダース(オランダ)対須藤玲子は「ユーラシアの庭」という名を冠した、約400年前のリーフデ号の乗組員を助けた臼杵の人たちの「友愛」へのオマージュである。2人はこの歴史的交流を念頭に置いて、自国の文化的風土や感受性、大分という土地柄を考慮に入れながら、今回の大インスタレーションに臨んでくれている。

 1階西壁のミヤケマイによる「世界鳩時計」も、もちろん僕は「大分観光壁」として彼女に依頼した。観光とは元来、日常にはない「光を訪ねて赴くこと」、そして「その光のよすが」を日常に持ち帰り、日々を新たに活性化することだ。つまりルーツはアートと同じなのである。

 オープン展の世界のモダン名画200選は、「大分=世界美術館―大分そのものが世界と結び合うグローバルミュージアムなのだ」という意味合いを込めてある。スペインからキリスト教文化をもたらしたザビエルの魂が、国立ソフィア王妃芸術センターからダリとミロを招来してくれる。リーフデ号の英国人乗組員ウィリアム・アダムスが、テート・ギャラリーから至宝ターナーを持って再びやって来る。ヤン・ヨーステンが、オランダのデン・ハーグ市立美術館から20世紀抽象の王者モンドリアンをもたらすのである。

 そして、それらモダンの王者たちを大分の誇るモダン作家の田能村竹田、福田平八郎、髙山辰雄、宇治山哲平らが迎え撃つのである。大分と何の関係もないただ有名な名品や作家がやって来るのとは話が本から違う。それが「大分世界美術館」の意味であって、それでなくて何のための県立美術館なのかと僕には思えるのである。

 このミュージアムがオープンしたら、大分は日本一、世界一の芸術県としてよみがえる。それでなくて何のための県立美術館なのかと、宇宙芸術霊は大分県民に叫んでいるのである。


 新見 隆(にいみ りゅう)
 県立美術館長
 武蔵野美術大芸術文化学科教授

大分合同新聞 平成26年8月25日朝刊掲載

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