OPAMブログ

「アートも食も」 県立美術館長の大分ビーナス計画 その十

寄稿 2016.11.26

コー・フェルズー、ADO 《青果トラック》 1953年 CODAミュージアム蔵 Copyright CODA/Gerhard Witteveen

コー・フェルズー、ADO 《青果トラック》 1953年 CODAミュージアム蔵 Copyright CODA/Gerhard Witteveen

今年のOPAM(県立美術館)入魂企画の一つ「オランダのモダン・デザイン」展が12月2日から始まる。東京オペラシティアートギャラリー(新宿区)での開催は終わったが、そちらとの共同企画だ。しかし普通の「巡回展」とは全く違って、新生県立美術館が温めてきた自主企画である。
一般の人は内部事情が分からず、気付いていないだろうが、大きな企画展には作品の調査、選定、交渉などに膨大な労力がかかるため、多くの美術館は、新聞社やテレビ局、あるいは東京の大きな美術館の企画力に頼って、いわば「企画買い」展に傾きがちである。
僕は館長に就任して以来、特別な事情がない限り「外部からの企画買い」をやってない。例外は「進撃の巨人」展だけだ。日田市大山町出身の諫山創さんの仕事にほれ、展観自体がダイナミックでよくできていたからだ。
なぜそこまで自主企画にこだわるのか?答えは簡単で「大分ならではの、ユニークで、唯一無二のもの」を提供することが、館長の県民に対する義務の一つと心得るからだ。
漫然と「企画買い」を繰り返せば、美術館の機動力の中心である「ものづくりの力」を弱め、大分の世界性に期待しているクリエーティブな若手層を裏切ることにもなりかねない。そう考えて、あえて労力のかかる「自主企画」に、学芸員の総力を結集してきた。
今展の発端は、開館記念展「モダン百花繚(りょう)乱(らん)『大分世界美術館』」の準備に、オランダ・ユトレヒトにあるセントラル・ミュージアムを訪ねたことにある。そこには世界的に有名になった「ミッフィー」の生みの親ディック・ブルーナのコレクションが一括して収められ、世界中からファンが詰め掛けているのを見た。
OPAM開館時に大分で講演してもらったエドウィン・ヤコブス館長に、「絵本の名人ブルーナを中心にしてオランダの人間主義、生活に密着したものづくりを紹介したい」と提案して歓迎された。そこで学芸員の大先輩ライヤー・クラスと、大分の中堅若手学芸員が苦心して交渉しながら、つくり上げてきた。
もちろんなぜオランダなのかは、「リーフデ(オランダ語で「愛」)号」が1600年に臼杵沖の黒島に漂着し、地元の人たちが助けた、大分における「日蘭」の故事に由来する。
オランダはチューリップと風車の国。天才ゴッホの故郷で、欧州の中心にあって海洋貿易で栄えた。市民社会が早くから発達し、王室と共存共栄している。プロテスタントでもさらに厳格なカルバン派が主流で、その生真面目で律義なる国民性は、欧州圏内でも日本に最も似ているといえる。
美術でいうと、貿易による市民社会発達を背景に、黄金の17世紀に日本でも大人気である光の作家フェルメール、影の作家レンブラントを生んだ。
世界遺産になったアムステルダムは美しい運河の街で、歴史ある宗教大学都市ユトレヒトもれんが造りのしゃれた家が立ち並び、日本人にも違和感のない景観が広がっている。
鑑賞主体の絵画や彫刻を日本は明治になって西洋から移入した。それまでは工芸や家のしつらいに密着した生活芸術を育んできた。意外にも、欧州でもそういう国オランダがあるので、そのデザインを紹介しようというのが主眼である。


新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大学芸術文化学科教授

 大分合同新聞 平成28年11月26日朝刊掲載

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