「坂茂建築展-仮設住宅から美術館まで」 第4回
2020.05.25
心の中で感じるままに
自らの手で描くスケッチ
大分市寿町の大分県立美術館で開催中の「坂茂建築展~仮設住宅から美術館まで」は、世界的な建築家で建築界のノーベル賞とされるプリツカー賞を2014年に受賞した坂茂氏の35年間の活動を紹介しています。「(1)紙の構造」「(2)木の可能性」「(3)手で描く」「(4)プロダクトデザイン」「(5)災害支援」の五つのテーマに沿って展開しており、今回は(3)(4)を中心に紹介します。
私たちの日常生活でパソコンやスマートフォンは欠かせない物になっています。建築の現場でも科学技術の進化の影響は大きく、コンピューターを駆使して製図をして構造計算をします。しかし、坂氏のスケッチは必ず手で描いています。その数は、数万点を超えています。
なぜ、手でのスケッチにこだわるのでしょうか? その問いに坂氏は「ある建築家との会話の中で出た『コンピューターでつくったものは頭に残る。しかし、コンピューターを使う時は頭で書いている。しかし手で描いている時は心で書いている』という言葉に非常に共感したのを覚えている」と答えています。また「スケッチは、使い終わったA4サイズの紙の裏側に描いている。真っ白な紙よりも、その方が筆が進む」とも語っています。
プロジェクトに取り組む時に、現地を訪れ、その土地や人々を見て、話し、歴史や風土を調べ、思考し、構想したものを具現化する作業がスケッチです。坂氏のスケッチには、迷ったような線や色などは見られません。頭の中で組み立て、心の中で感じたものが、水がせきを切って流れ出すように紙の上に描かれているように見えます。一つのプロジェクトで10枚以上のスケッチを描いています。内容は建築物だけでなく、ランドスケープ全体や建築物の部位に至るまで詳細に描かれています。
「プロダクトデザイン(製品のデザイン)」も建築物と同様に、自らの手でスケッチを描き、つくられます。坂氏は「既製品ではなく、できるだけ、その建築物や空間に合うものを工程や費用面などの効率も考えてつくりたい」と話しています。大分県立美術館にも、県にゆかりのある竹や七島イが使われたベンチや効率良く組み立てられる椅子などが置かれています。
会場では700枚以上のスケッチの他、椅子や照明器具などのプロダクトデザインも展示しています。
(大分県立美術館・主幹学芸員 宇都宮寿)
▽坂茂建築展は7月5日まで。観覧料は一般千円、大学・高校生700円、中学生以下無料。
=連載終わり=
ラ・セーヌ・ミュジカル(スケッチ) ©坂茂建築設計 |
(左上)「Carta Collection」©Cappellini (左下)「L-Unit System」©Aino Huovio (右)「大分県立美術館の家具」©平井広行 |
大分合同新聞 令和2年5月23日掲載