コレクション展Ⅲ「天国と地獄」【中】
2020.08.30
神々しさ、人間の闇に焦点
コレクション展Ⅲ「天国と地獄」は「(1)理想郷への憧れ」「(2)生の光と影」「(3)豊かで健やかなることを願って」「(4)地ゴク楽(JIGOKURAKU)」「(5)聖なるもの」の五つのテーマで構成されています。今回は(1)(2)について紹介します。
「理想郷への憧れ」は、不老不死の神薬が手に入ると信じられた想像上の神山「蓬莱山(ほうらいさん)」や、5世紀の中国の詩人・陶淵明(とうえんめい)が記した「桃源郷」などの理想郷をモチーフにした河村文鳳の「蓬莱山図」や森寛斎の「蓬莱山中北極星迎南極星図」、田能村正東の「武陵桃源図」などを展示しています。
その他、仏教で衆生(生きとし生けるもの)を救済して極楽浄土へ導く「観音」や、浄土に咲く花「蓮(はす)」をテーマとする絵画や彫刻、髙山辰雄の「豊の国の朝」(県立病院ホール陶板画原画)、神の島とされる琵琶湖の竹生島を描いた正井和行の「茫(はるか)」など、日本画家の清らかでけがれのない神々しい世界観を鑑賞できます。
「生の光と影」では、静謐(せいひつ)で奥深い情景を映し出した作品や、戦争などでの人間の苦しみや葛藤、理性の裏側に潜む狂気や残虐性を想起させる作品などを紹介しています。
静謐の情景では、万物の初源をつかもうと希求し、普遍なものを画面に生み出そうとした菊畑茂久馬の「月光」シリーズから「月光(六)」や正井和行の「廃坑」などが並びます。
人間の闇に焦点を当てた作品には、2度の世界大戦やレジスタンス運動を経験したジャン・フォートリエが、破壊された人間を表現した「Les Massacres」(大虐殺)や、軍隊の体験を基に制作した浜田知明の「初年兵哀歌シリーズ」、火の向こう側で人体が苦悩し、助けを求めてもがき、叫び続ける様子を描いた糸園和三郎の「幕」シリーズの他、心の奥底に潜む欲望を擬人化したような加藤光馬の「煩悩(Ι)」などを紹介しています。
芸術家が人間社会の影の側面を描くのは、悲劇を招く人間の性(さが)を描くことにとどまらず、それを認め、乗り越える契機になってほしいと強く希望しているからではないでしょうか。絵に込められたメッセージにも注目してみてはいかがでしょうか。
(大分県立美術館 主幹学芸員 宇都宮壽・宗像晋作、学芸員・柴崎香那)
▽「天国と地獄」は9月29日まで、3階コレクション展示室で。観覧料は一般300円、大学・高校生は200円。中学生以下無料。
「生の光と影」展示風景 |
森寛斎 《蓬莱山中北極星迎南極星図》 1888(明治21)年 |
大分合同新聞 令和2年8月28日掲載