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コレクション展Ⅲ「天国と地獄」【下】

展覧会 2020.09.05

“原初の姿”を映し出す

大分県立美術館のコレクション展Ⅲ「天国と地獄」のテーマの一つ「地ゴク楽(JIGOKURAKU)」について紹介します。このコーナーは現代作家・真島直子が手掛けた同名の作品を中心に展示しています。
真島は名古屋市出身で、2002年の第10回バングラディシュ・ビエンナーレでグランプリを受賞した他、国内外で多数の展覧会に参加し、高い評価を受けている現代作家です。「地ゴク楽(JIGOKURAKU)」とは、「地獄」と「極楽」を一語にした真島の造語で、1990年からオブジェやペンと水彩による絵画、鉛筆画の作品を発表しています。
オブジェは朱や藍、深緑、茶褐色、白など何種類ものひもやガーゼなどが絡み合い、くねりながら四方八方に広がる物や、細かい繊維がほつれ合い、ぶら下がりながら広がっていく物があります。他にも床に足を投げ出して座った人の姿や、池で餌を求めて口を開けるコイのような立体などがあります。横5mの鉛筆画の作品は精子や卵子、ウイルスや細菌など、無数の生命体のようなものが、うねり、漂い、うごめきながら、真っ白な画面を埋め尽くしています。
真島の作品は、全ての生命体は何らかの交わりの中から個体として生を授かり、そして他の生命体と関わって成長や変容、腐敗、消滅を繰り返していくという、生命体としての“原初の姿”が映し出されているように感じます。
おどろおどろしいオブジェの姿や、無数の微生物のようなものが埋め尽くす画面を前に不気味さを感じながらもどこか心引かれるものがあるのは、自分の中にある身体的機能や感覚が反応するからではないでしょうか。
「地獄」と「極楽」いう対極的な概念を一つにした「地ゴク楽(JIGOKURAKU)」という言葉には、地球上の生命体の姿を一言で表そうとした真島の思いを感じます。それは現代社会を生きる私たちに原初の感覚を呼び戻させるきっかけを与えるものなのかもしれません。
今回、真島の作品は平面と立体合わせて12点を展示しています。これだけの作品がそろう貴重な機会となるので、ぜひ実物を見て、生命の力を体感してください。

(大分県立美術館 主幹学芸員 宇都宮壽)

▽「天国と地獄」は9月29日まで、3階コレクション展示室で。観覧料は一般300円、大学・高校生は200円。中学生以下無料。
 

展示された「地ゴク楽(JIGOKURAKU)」、左側の絵画は左から「脳内麻薬2」「脳内麻薬4」
展示された「地ゴク楽(JIGOKURAKU)」、左側の絵画は左から「脳内麻薬2」「脳内麻薬4」


大分合同新聞 令和2年9月5日掲載