大分のアート立国、文化リテラシー物語 その十七
2014.09.22
世間でも、大分でも、現在はいろいろな形で、どうやって地域創造をやっていくかが大いに注目を集めている時代だ。
これからは、美術館という文化ソフトを高度に持っている文化組織が、大小さまざまな企業体と深く連携し、地域に文化事業を共同創成すること。そして企業はミュージアムという文化組織自体を自らの企業文化をより豊かにするような、一種の人材教育システムとして位置付けるべきだと考えている。
さらには、ミュージアムが企業に文化活用事業のコンサルティングを行っていきながら、文化組織―企業―地域の相互利用、相互活用、相互活性化を実現すべく互いに考え議論し、実践するような「未来型の地域創造」しか絶対にあり得ないと僕は思っている。
焼酎のラベルに福田平八郎画伯の絵を使ってもらうデザイン・コンサルティング、菓子の文化を若手のアーティストが現代に再創造する商品化。鉄の文化や電気の文化、酒や菓子、何でも人間の営みには長い歴史と文化がある。ミュージアムに社員皆さんが来てもらって、さまざまな展覧会やコレクションを見て楽しみながら、そしていろいろな形で発想を交換し合いながら、自らの企業文化の根と未来とを考える「企業―美術館アカデミー」のようなものを創出したい。
やがて、県内18の市町村がそれぞれ企業と共同して内外の現存作家を呼んで「神話の再創造的」な、場に密着した作品を住民とのコラボレーションによって生み出す。
さらには地域に埋もれていた建造物や施設を新しい長期滞在型のカルチャーツーリズムの拠点的ペンション=「アート・ビオトープ」に変えていくプロジェクト。僕は栃木県の那須で北山ひとみさんとこういうことを実践してきた。
県立美術館の担うべき役割は、内外重要美術館からの優品名品的芸術作品を招来し、それらと収蔵する大分が誇る「美の宝」を織り交ぜて展示するコラボレーションでもって「大分と世界に互いに新しい光を与える」こと。そして現代作家と共同した地域文化の「神話再活性」を行っていくことだけには決して終わらない。僕は、その担うべき責務は、もっと大きく深いと考える人間である。
県内企業と共同して、それをコンサルティングしながら、おのおの、めいめいユニークな活動を行っている企業文化のグローバルな発信と、地域社会への貢献をサポートしていきたい。僕は県立美術館自体を前人未到の自治体内「文化行政組織」であるべきと考えている。互いにそこまで考えて、人員と予算を準備し、共同プロジェクトを起こしましょうと県内各企業に呼び掛けたいのである。
単に展覧会に対して、冠的協賛金を継続的にもらっていて、それで済むなどとは決して考えてはいない。主役主体はあくまで企業各社の皆さんなのだ。いかようにも、いかなるレベルにも合わせて、僕らはプログラムを準備するつもりだ。
企業内文化を新たな形で再活性化し、自らもソフト的、あるいは実利的なる利益を生み、かついまだかつてない形で地域貢献を行おうと考えている有意の企業ならば、必ずや僕の意図に賛同、参加していただけるものと確信している。
新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大芸術文化学科教授
大分合同新聞 平成26年9月22日朝刊掲載