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「2021コレクション展Ⅳ 池田栄廣生誕120年・吉村益信没後10年 革新と前衛の美術」【上】

コレクション 2022.01.28

日本画家・池田栄廣 軽やかなモダンスタイル

大分市寿町の県立美術館でコレクション展Ⅳ「革新と前衛の美術」が開かれている。同館の担当学芸員が見どころを紹介する。


昨年、生誕120年を迎えた日本画家・池田栄廣(1901~92年)は、広島県呉市に生まれ、20代の頃、親族がいた別府で過ごした。当時の別府は、港湾、鉄道、道路などの交通基盤が整備され、宿泊施設も急増し、温泉観光地として飛躍的な発展を遂げていた。そんな活気にあふれる別府で、若き栄廣は、当時の最新式自動車を操るタクシードライバーとして生計を立てていた。一説によれば、栄廣のタクシーに偶然乗ってきたのが、後に弟子入りすることになる京都画壇の重鎮・堂本印象だったという。


栄廣は京都へ上り、堂本の画塾・東丘社ですぐに頭角を現した。27(昭和2)年の第8回帝展で「犬」という作品でデビュー。画業前半期の栄廣は、特に洋犬を主題とした作品を次々に発表して「犬の画家」といわれた。


水中を遊泳する3匹の洋犬を取り上げた「猟犬」には、細長い顔、毛足の長い尻尾などの特徴を持つ洋犬が描かれている。ロシア原産の猟犬ボルゾイの特徴に通じる。遺族の話によれば、栄廣は京都の自宅で実際にボルゾイを飼っていたそうだ。よほどの愛犬家でもあったのだろう。


戦後、栄廣は東丘社を去り、院展に活動の場を移す。テーマは犬から人物にシフトし、特に女性たちの仕事風景に取材した優品を残している。「染彩繍(せん/さい/しゅう)」は、画業後半期の代表作。手作業で刺しゅうする4人の女性を描いている。


雑然とした作業場の風景ともいえるが、鮮やかな洋服の色彩が画面に映え、糸車や染糸、はさみなどの各モチーフの造形が共鳴し合い、豊かな構成の画面をつくっている。


日本画に常套的な花鳥風月のテーマを離れ、余白を生かした叙情性の表出にも興味を示さない。栄廣は、時代に即応したテーマを選び、具体的に色と形で新しい日本画を表現することに挑戦しているのだ。


栄廣が活躍した昭和初頭から戦後は、都市の変貌と生活様式の変化が進み、日本の近代化が新たな展開を生み出した激動の時代だった。こうした風潮は美術の分野にも影響を与え、伝統的で古様なイメージで捉えられることが多かった日本画にも変化をもたらした。栄廣の絵画の爽やかに整理された構図や色彩、そしてユニークなテーマ設定は、昭和という時代の新感覚で軽やかなモダンスタイルとして栄廣の作風を特徴づけている。


因習や伝統にとらわれず、日本画の分野に、新しい風を吹き込んだ栄廣の作品をじっくり楽しんでいただきたい。


(県立美術館主幹学芸員 宗像晋作)



▽「革新と前衛の美術」は2月14日まで。観覧料は一般300円、大学・高校生200円。中学生以下無料。

 

池田栄廣《猟犬》1940(昭和15)年
池田栄廣《猟犬》1940(昭和15)年
池田栄廣《染彩繍》1954(昭和29)年
池田栄廣《染彩繍》1954(昭和29)年