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「大本山 相国寺と金閣・銀閣の名宝」寄稿記事【下】

寄稿 2023.01.06

 物事が行われるには、機縁があります。この展覧会が大分で開催されることになったのは、広瀬知事と相国寺派管長の有馬賴底師との対談の席で、相国寺の文化財を大分で見ることができる、そんな機会があると良いのにと話されたことに始まりました。その話に端を発して、重要文化財の出品調整など数年をかけた準備を経て、展覧会が開催されています。
 広瀬知事は日田市の生まれ、有馬管長は日田市の岳林寺で得度されました。この展覧会では、もう一人日田ゆかりの人が登場します。日田出身の日本画家岩澤重夫。長年京都市の文化財保護ポスターを描いていた画伯に、日田中学の後輩である有馬管長が金閣寺客殿の襖絵制作を依頼して実現したものです。この襖絵は写実的な風景画を得意とした岩澤があえて抽象表現に挑んだ作品であり、絶筆となったものです。酸化により黒変する銀箔と白い輝きを保つプラチナ箔、10年後の変化を意識して描いたといわれます。今がまさにその時。光の反射によって色味の変わる箔による表現を、作品から離れ、あるいは見る高さを変えてご覧ください。お寺ではこれが自然の変化の中であらわれるのですが、美術館の照明では難しいのです。残念ながら金閣寺客殿は通常公開されていないので、この機会を逃すと見ることはできません。展示では、襖の表裏両方が見えるケースを特設しました。「抽象の桜」と「写実の梅」の両方が見える希少な機会です。
 襖といえば、若冲の作品も必見です。梅荘顕常(大典禅師)との縁により、相国寺には多くの若冲作品が伝わりましたが、重要文化財の鹿苑寺大書院旧蔵の障壁画はその代表です。9図相当の部分が出品されましたが、表裏の図もあるため半分が入れ替わっています。若冲の「芭蕉図」と顕常の詩が対となった作品も一つの世界を作り上げています。着色花鳥図を含めこれほど多くの若冲作品が大分に集まるのも一つの縁というべきかもしれません。新しい年、この縁を楽しんでください。

(大分県立美術館 館長 田沢裕賀)

 

岩澤重夫《金閣寺客殿障壁画 中の間南面襖絵(抽象の桜)》平成21(2009)年 鹿苑寺蔵  伊藤若冲筆 梅荘顕常賛《芭蕉図》江戸時代( 18世紀 )大光明寺蔵
岩澤重夫《金閣寺客殿障壁画 中の間南面襖絵(抽象の桜)》平成21(2009)年 鹿苑寺蔵  伊藤若冲筆 梅荘顕常賛《芭蕉図》江戸時代( 18世紀 )大光明寺蔵



大分合同新聞 令和5年1月6日掲載