「コレクション展IV 造形紀行「デザイン」の楽しみ」寄稿記事
2023.03.10
2月2日(木)より開催中の「コレクション展IV 造形紀行「デザイン」の楽しみ」では、生活に密着した「デザイン」という言葉を「造形」「構想」「設計」など幅広い視点から捉え、所蔵品に「デザイン」の要素を見出すことで、美術にみる「デザイン」の面白さを紹介する。大分市の古書店・カモシカ書店や大分県立芸術文化短期大学による特別出品を加えて、約120点という充実した展示で、造形の豊かさやアイデアの斬新さを伝える。
第1章・2章は「デザイン」を考える入口として、具象と抽象の間を行き来する1950年代の宇治山哲平の絵画とスケッチ、また新規に収蔵した吉村益信の大作《9.11タワー》の他、後藤龍二や江藤明ら県内作家による幾何学抽象的な絵画を通して、画家が独創的な形を作る行為や、形を組み合わせて一枚の作品を生み出すプロセスに注目する。
第3章では大正期より木版や装幀の分野で活躍した恩地孝四郎の歩みを、当館所蔵の版画にカモシカ書店が所蔵する貴重な本や資料を加え体系的にたどる。抽象表現の先駆けとなった初期の版画や詩作に始まり、1930年代に自ら装本の全てを手がけた《海の童話》や《季節標》、また竹久夢二や北原白秋、北園克衛など、同時代を代表する画家や詩人たちと協働した仕事など、恩地の多面的な創作と展開を知ることができる。日本における「デザイン」の開花期に制作された貴重な作品と資料から、今もなお新鮮な造形感覚を感じていただきたい。
第4章では、大分県立芸術文化短期大学美術科が所蔵する戦後のポスターに、当館の前身である大分県立芸術会館が開館に際し大分銀行より寄贈を受けた現代版画を合わせ、デザインと美術の関わりを探る。亀倉雄策による1964年東京オリンピックのポスター、田中一光や永井一正の代表作、横尾忠則や磯崎新の版画などを展示。1階で開催中の企画展「イメージの力 河北秀也のiichiko design」とあわせて、ぜひクリエイティブで魅力的な「デザイン」の旅を楽しんでいただきたい。
(大分県立美術館学芸企画課 主任学芸員 木藤野絵)
令和5年3月10日 大分合同新聞掲載
恩地孝四郎関連資料 カモシカ書店所蔵 | デザイン/亀倉雄策、フォトディレクター/村越襄、写真/早崎治《オリンピック 東京大会第2号ポスター》1962年(展示作品:1990年版、大分県立芸術文化短期大学美術科所蔵) |