2020.05.25
大分県立美術館(OPAM)は4月に開館5周年を迎えた。それを記念して同館設計者で、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞した坂 茂氏の展覧会「坂茂建築展-仮設住宅から美術館まで」を開催している。
坂 茂氏は国際的に評価の高い建築物を数多く手掛け、紙など新しい資材を使用し、斬新な手法を開発する一方、災害支援活動家としての顔を持ち、25年以上にわたり全世界で難民や被災者のための支援プロジェクトを行ってきた。本展では、その坂氏の活動の全貌を、開館以来最大規模の展示によって5つのキーワードで紹介する。
展示室の有料観覧ゾーンでは、「(1)紙の構造」「(2)木の可能性」「(3)手で描く」を紹介。「(1)紙の構造」のエリアでは、「紙の建築」を行うきっかけとなった、1986年に手がけた20世紀を代表するフィンランドの建築家でデザイナーのアルヴァ・アアルト(1898~1976年)の家具とガラス展の展示デザインの紹介にはじまり、90年頃からのイベント会場や住宅などの建築物、95年に発生した阪神淡路大震災の支援活動に使われた「紙のログハウス」や「紙の教会」、2000年に開催の「ハノーバー国際博覧会 日本館」(ドイツ)などの紙の取り組みを紹介する。続く「(2)木の可能性」では、10年にフランス・メス市に開館した美術館「ポンピドゥー・センター・メ ス」や17年にパリ郊外セーヌ川の中州にオープンした複合音楽施設「ラ・セーヌ・ミュージカル」、同年に静岡県富士宮市にオープンした「静岡県富士山世界遺産センター」などの実物大の部分模型やモックアップ(実物とほぼ同じように再現された模型)の他、映像や写真などを紹介。「(3)手で描く」ではプロジェクトに取り組むにあたり、必ず手書きでスケッチを描くという坂氏のスケッチが壁一面に展示される。
展示エリアの半分を占めるアトリウム空間は無料の観覧ゾーン。このスペースでは、「(4)プロダクトデザイン」で「既製品ではなく、できるだけ、その建築物や空間に合うものを工程や費用面などの効率も考えてつくりたい」という坂氏が手がけたテーブルや椅子、照明器具などを紹介し、「(5)災害支援」では、2011年の地震で甚大な被害を受けたニュージーランドの都市クライストチャーチに建てられた「紙の大聖堂」の1/10サイズの模型や、同年の東日本大震災や16年の熊本・大分地震などでも活用された「避難所用間仕切りシステム」の実物など災害支援活動を紹介している。
1階の展示室は通常、壁に閉ざされており、中に入らないと様子が分からないが、本展では壁を置かないことで外から展示室の中の様子を垣間見ることができるような仕組みに。また、天候など条件が整った場合には、南側の道路に面したガラスの水平折戸を開放し、街と一体化させることも計画している。
坂氏が掲げたOPAMの基本コンセプト「街に開かれた縁側としての美術館」を体感し、これまでとは違うOPAMの新しい展示空間をぜひお楽しみいただきたい。
(大分県立美術館・主幹学芸員 宇都宮壽)
会期:5月11日(月)~7月5日(日) ※休展日 無
時間:10時~19時(金・土曜は20時まで、入場は閉館の30分前まで)
会場:大分県立美術館(OPAM)(大分県大分市寿町2―1)
Tel:097―533―4500
料金:一般1000円
ハノーバー国際博覧会2000 日本館 ©Hiroyuki Hirai |
「紙の構造」 ドイツ・ハノーバー国際博覧会日本館、紙の茶室ほか |
「災害支援」奥に見えるのが避難所用紙の間仕切りシステム |
「手で描く」壁一面のスケッチ |
新美術新聞 令和2年5月21日掲載