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佐藤雅晴 尾行―存在の不在/不在の存在 第2回

展覧会 2021.05.16

実像と虚像・・・はざまを行き来
ドイツでの制作活動、礎に

佐藤雅晴の代表作であり、「存在の不在/不在の存在」という佐藤の作品世界を最も鮮明に映す「東京尾行」を紹介します。
この作品は、2015年から16年にかけて制作された、実像とアニメーションを合わせたものです。1台の自動演奏ピアノがドビュッシーの「月の光」を奏でる中、12台のモニターに90もの場面の映像が流れます。実写の映像が実像であり、アニメーションが虚像であるようにも見えますが、またその逆に、アニメーションが実像であり、実写の映像が虚像であるようにも感じられ、見る者に虚実のはざまを行き来させるような不思議な思いを抱かせます。
この作品は、10年に発見、治療を受けたがんの再発が確認され、その治療で入院した時期を挟んで制作されたものです。病を患い、自身の生と死に常に思いを向けざるを得なかった佐藤は、日常の何気ない風景の中に映された人々の姿や動植物、街の様子に、いずれは消えゆく自分自身と万物の常ならざる定めを感じ、そうであるからこそ、目の前に映るその姿をいとおしむまなざしを注いだのではないでしょうか。

次に、佐藤がドイツで生活していた頃の作品を紹介します。佐藤は、1999年にドイツに渡り、10年間、デュッセルドルフを拠点に活動します。渡独後2年間は、ドイツ国立デュッセルドルフ・クンスト・アカデミーにガストシューラー(研究生)として在籍し、創作に取り組みました。その後、日本食レストランに就職、仕事に追われる日々を過ごすことになりますが、2003年ごろ、パソコンのペンツールを使って絵を描く方法を知り、試行錯誤を重ね、04年から07年にかけ、自身が見た夢をインスピレーション源にしたアニメーション作品「TRAUM」を制作します。そして、この作品の発表を機に、「存在の不在/不在の存在」とでもいうような、その後の佐藤の作品世界の礎となる映像や平面作品を制作していきます。

会場では、このほかにも、11人の若い男女が1人ずつモニターの中で、ゆっくりと振り向き顔を見せ、またゆっくりと向こう側に顔を向ける様子が繰り返し流れる「アバター11」などの映像作品のほか、歩道に打ち捨てられた髪を描いた「Hair」などの街で見かけた風景を題材に制作された平面作品を展示しています。 仕事に追われ、創作のともしびが消えてしまいそうになる「暗黒の時代」とでも呼べる日々を乗り越え、創作の翼を再び広げ、羽ばたき始めた佐藤の姿が映されているような作品の数々をぜひご覧ください。

(県立美術館学芸企画課長 宇都宮壽)

▽企画展「佐藤雅晴 尾行―存在の不在/不在の存在」(大分合同新聞社など共催)は、大分市寿町の県立美術館で6月27日まで。
 観覧料は一般800円、大学・高校生500円。
 

佐藤雅晴 《東京尾行》 (2015-2016年)
佐藤雅晴 《東京尾行》 (2015-2016年)
佐藤雅晴 《TRAUM》 (2004-2007年)
佐藤雅晴 《TRAUM》 (2004-2007年)
佐藤雅晴 《アバター11》 (2009年)
佐藤雅晴 《アバター11》 (2009年)


大分合同新聞 令和3年5月15日(土)掲載
 

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