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のどかな片田舎にあらわれた、本当の美がわかる人たちによってつくられた、おもしろい正真正銘の芸術祭

寄稿 2022.11.26

杵築市山香町で「カタスミカイカイ芸術祭」
何かが変わる「おもしろさ」

「カタスミカイカイ芸術祭」が杵築市山香町で開かれている。大分県立美術館の宇都宮壽学芸企画課長の寄稿を紹介する。

私がこの芸術祭に行ったのは、初日の10月29日の午後。印刷前の手描きの簡易版会場地図を片手に展示場所をきょろきょろと探しながら歩いた。地図に沿って歩いているつもりが、展示が見当たらない。さらに心細く思いながら歩いていると、楽市ギャラリーの沢村武山氏の展示場所にたどり着く。誰しもが目にする日常の街や海、山などの風景が描かれた作品が並ぶ。現地で描くスタイルとのことで、山香の景色もいくつかある。描かれているのはどれも日本の風景だが、エドワード・ホッポー風の明るい画面に映されたその景色は、懐かしくあるとともに、どこかいつもとは違う別の時空にある景色のようにも感じる。

いくつか回った後、山香出身で高校卒業後は京都で市井の人たちを撮り続けている写真家・甲斐扶佐義氏の作品が展示されている小野家に向かった。ここでも3回くらい同じ場所をぐるぐるした後、やっとたどり着く。酒造倉庫のそばにある2階建ての木造家屋が会場である。昭和の時代の後ろ姿の女性や農家の人など、市井の人を写したモノクロ写真が、床の間や、居間や廊下の天井からつるされている。そこには、山本閑象氏の素朴で静謐なものや、加えて、生き物のようでもある不思議な焼き物も置かれ、2階の1部屋には松岡勇樹氏が杉の薄板で作った老松が展示されている。今は使われなくなった母屋で作品とともにいると、数十年の時の流れと現在が出合うような不思議な感覚を覚える。

以前、実行委員長の二宮圭一氏から「秋に山香で甲斐さんの展示をやる」とは聞いていた。それが、まさか芸術祭にまで発展するとは。私はタイトルに「のどかな片田舎にあらわれた、本当の美がわかる人たちによってつくられた、おもしろい正真正銘の芸術祭」と銘打った。それは地域おこしや産業・観光振興をもくろみ、アートをネタに行われるようなイベントではない。いいものを見せよう、見よう、「面白い」をつくろう、楽しもう。それこそがアートだし、何かが変わり、動き、新たな希望を生み出すはずだと信じ、取り組んだものであると、ここを訪れ、そう感じたからだ。

私が訪れた後には、しっかりとしたリーフレットが出来上がったようなので、これから行かれる方は私のように迷うことはないでしょう。正真正銘の芸術祭にぜひお運びいただきたい。

▽会期は12月11日まで。観覧は金、土、日の午前10時から午後4時まで。
 

沢村武山「山香 又井風景」
沢村武山「山香 又井風景」
甲斐扶佐義の写真の展示風景
甲斐扶佐義の写真の展示風景


大分合同新聞 令和4年11月26日掲載

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