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「養老孟司と小檜山賢二「虫展」 〜みて、かんじて、そしてかんがえよう」寄稿記事【上】

寄稿 2024.08.02

 夏といえば、海や川、山に出て、自然と触れ合う時間を過ごす方も多いのではないでしょうか。水遊びや虫取りなどをした記憶のある方もいらっしゃるかもしれません。この夏、当館では、「虫展」を開催しております。解剖学者の養老孟司さんが本展のために書き下ろした虫を巡る言葉を軸に、デジタル技術を応用した昆虫写真のパイオニアである小檜山賢二さんの写真と共に、映像や体験型コンテンツなどをお届けします。
 ベストセラーとなった「バカの壁」などの著書で知られる養老孟司さんは小学生の頃から昆虫標本を作り、解剖学者、医学者として功績を重ねながら、2005年に標本を収める「養老昆虫館」を箱根に造りました。本展では養老さんの虫研究室をのぞくような仕掛けと、電子顕微鏡や標本作りの道具などを展示しています。養老さんのメッセージは「好きなものをよく見つめること」。虫をじっくり「見る」ことで気付きを得て自分自身も変わる、と教えてくれます。展示室や館内に掲げられた養老さんのたくさんの言葉からは、自然だけではなく社会や暮らしについても考えを巡らせることができるでしょう。
 小檜山賢二さんは「深度合成」という技術で、対象物の全てにピントの合う迫力のある写真作品を発表し、昆虫写真の新たな境地を切り開きました。数㍉、数㌢の虫は通常の接写撮影ではその一部にしかピントが合いません。何度もピントを変えて撮影し、複数の写真のピントが合った箇所のみを切り出し、デジタルあるいは手作業で画像を合成することで、驚くほど鮮明な昆虫の姿が現れます。本展では小檜山さんが手がけたカブトムシやゾウムシ、トビケラの巣などの大型写真パネル66点や巨大な壁面写真をお楽しみいただけます。微細な構造を拡大することで可視化される虫の造形の美しさや不思議さを感じていただければ幸いです。
 さらに小檜山さんが日々、交流サイト(SNS)に投稿する虫の写真を映像化したプロジェクションマッピングの部屋や、3Dモデリングの技術を応用してコントローラーで虫を自由に動かすことのできる部屋など、体感的に楽しめる展示もあります。そして今回は大分昆虫同好会のご協力により、特別に大分の昆虫を紹介するコーナーも設け、身近な虫や生態系について考える機会も提供しています。夏休みにぴったりの「虫展」。ぜひご家族でお出かけください。

(県立美術館主任学芸員 木藤野絵)

令和6年8月2日 大分合同新聞掲載

多様性の部屋
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