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「北斎と広重 冨嶽三十六景への挑戦 江戸東京博物館コレクションより」寄稿記事【上】

寄稿 2024.08.03

  本展では、現在リニューアル工事のため休館中の東京都江戸東京博物館のコレクションから、風景版画で双璧をなす葛飾北斎(1760~1849年)と歌川広重(1797~1858年)、それぞれの風景画への「挑戦」に焦点を当て、名作「冨嶽三十六景」「東海道五拾三次之内」などの代表作を中心に、2人の作品の魅力に迫ります。
 葛飾北斎は長い画業のうちに春朗から宗理、北斎、戴斗、為一、画狂老人と名前を変え、摺物(すりもの)、読本、風景版画、肉筆浮世絵など幅広いジャンルで活躍しました。変えたのは名前だけでなく、なんと生涯に90回以上の引っ越しをしたことでも知られています。
 有名な作品として「冨嶽三十六景」が挙げられます。1831(天保2)年から33(同4)年ごろにかけて発表された、36図に好評で追加となった10図の計46図からなるシリーズで、18世紀にヨーロッパから輸入された新しい青色の顔料、ベロ藍(プルシアンブルー)を大胆に用いた風景版画です。
 中でも新千円札の絵柄にも使用されている「神奈川沖浪裏(なみうら)」は誰もが知る作品。躍動的で迫力のある大波の動的な表現に対して、その奥に堂々とそびえる富士山との静動の対比は、北斎の一瞬を切り取る構図の妙が遺憾なく発揮された傑作です。こちらは12日までの展示となります。
 また通称「赤富士」として知られる「凱風(がいふう)快晴」も北斎の代表作の一つ。凱風とは初夏のそよ風のことで、夏の日の早朝、朝焼けで富士山が赤く染まった風景を描いています。深い青色の空と、対照的な赤色の富士山の鮮やかな風景がすがすがしい作品です。こちらは13日から9月2日までの展示です。どちらもお見逃しなく!

(大分県立美術館 学芸員 柴﨑香那

令和6年8月3日 大分合同新聞掲載


 

葛飾北斎 《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》 天保2年~4年(1831~33)頃 江戸東京博物館蔵 【7月26日~8月12日展示】 葛飾北斎 《冨嶽三十六景 凱風快晴》 天保2~4年(1831~33)頃  江戸東京博物館蔵 【8月13日~9月2日展示】
葛飾北斎 《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》 天保2年~4年(1831~33)頃 江戸東京博物館蔵 【7月26日~8月12日展示】 葛飾北斎 《冨嶽三十六景 凱風快晴》 天保2~4年(1831~33)頃 江戸東京博物館蔵 【8月13日~9月2日展示】

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