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OPAMブログ

2020年2月17日 寄稿

身体表現パフォーマンス「raw 精神と肉体の展覧会」

「生と死」現代人に問う 新宅加奈子(大分県出身)「raw」

大分市出身で芸術緑丘高校、京都造形大卒業後、京都府を拠点に全身に絵の具をまとうパフォーマンスを展開する新宅加奈子。アジア新人アーティスト芸術祭やヨコハマトリエンナーレ2020の出演アーティストに選出されるなど、国内外で注目を集めている。新宅とダンサーが共演した身体表現パフォーマンス「raw 精神と肉体の展覧会」が1月、京都市であった。鑑賞した県立美術館の宇都宮壽主幹学芸員が感想を寄せた。
「raw」は生、生身という意味で、舞台は全ての人に共通する「人間の生と死、肉体と精神の存在」をテーマにしている。
開演前からステージ中央では髪の毛から両足の爪先まで全身赤っぽい新宅が、首を傾け、椅子に腰掛けている。開演とともに会場は暗くなり、音楽が流れ始める。新宅はほとんど動かないが、時折、足元の円筒状の容器に手を伸ばし、赤や黄、白の絵の具を頭や顔、身体に塗り重ねていく。周囲を7人のダンサーが言葉を発することなく、うごめき、走り、跳ねる。最後に、新宅と7人のダンサーが絡み合って一体となり、幕は閉じた。
新宅と共に「raw」を企画した、振付演出家・ダンサーとして世界で活動する庄波希(大阪府)は、がんの闘病経験がある。2人は“生”について次のようなメッセージを寄せる。
「私(庄)はがんの入院生活の中で身体よりも心が先に死に向かいだすことを知った。私(新宅)は抑圧された環境下にあったことが原因で裸になって絵の具をまとうまで生きていることを知らなかった。 私たちにとって死が待ってくれていることはとても安心できることだった。死ぬためにこの身体とともに生かされている。
死ぬためにあるこの身体をどう使うのか。精神と肉体の可能性を信じ、身体を動かし、他者をまとう。 その渦中で、あの時とは違う“死”をのぞける気がしてならないのだ。私たちはまだ、生きていることを知らない」―。
この世に命を授かった誰もが必ず迎える“死”。“生”は死に向かう有限のものであり、不思議でえたいの知れないものだからこそ、尊くて美しい。この舞台は、現代人に「生と死、肉体と精神の存在とは何か」を問うている。彼らの「raw(生)」の姿が、私たちにそのことを想起させ、揺さぶる。彼らの類いまれなパフォーマンスのさらなる飛躍にこれからも注目していきたい。

大分県立美術館 主幹学芸員 宇都宮壽


 

「raw 精神と肉体の展覧会」の一場面
撮影:松田ミネタカ

「raw 精神と肉体の展覧会」の一場面 撮影:松田ミネタカ


大分合同新聞 令和2年2月11日夕刊掲載

 

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