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「イメージの力 河北秀也のiichiko design」寄稿記事【3】
「いいちこ」のポスターは、毎月1枚、さらに12月のクリスマスバージョンを加え、
1年間に計13枚が制作されています。総制作数は、昨年末で500点を超えました。
ポスターは、いずれも掲出する時季を計算しながら制作されており、四季折々の草花であったり、夏の海辺の風景であったり、雪景色であったりと、その多くは、移ろいゆく季節の風景がモチーフとなっています。外の景色が見えない地下鉄駅の構内で、最初に新たな季節の到来を告げるのは、「いいちこ」のポスターなのかもしれません。
現在まで続く海外の風景を使ったポスターが登場するのは、1985年からです。河北が海外での撮影にこだわるのは、日本では電信柱や看板など殺風景な人工物が多く、思い通りの絵を撮るのが難しいからだといいます。
写真は、写真家の浅井慎平が担当し、毎年2回、河北とともに海外ロケを行って撮影しています。ポスターは季節を先取りする形で制作されるため、撮影は、1月から2月に春から夏にかけての素材、6月に秋から冬、早春にかけての素材というサイクルで行われています。出発数カ月前から、旅行ガイドや各国の大使館にある資料を参考にしながら河北自身が撮影プランを立て、ロケ地を決めています。
ポスターの制作は、掲出の2カ月ほど前からスタートします。まず河北が使用する写真を選び、コピーライター野口武がそれに合わせてコピーを作成。数十案のコピーの中から写真にふさわしいコピーが選ばれます。次にデザイナー土田康之がコピーと「iichiko」のロゴを写真の上にレイアウトし、最後に河北がまとめ上げるという工程で完成します。
印刷も徹底的にこだわっています。紙質や刷色(色数)によってポスターの見え方や雰囲気が大きく変わるからです。10種以上の紙に試し刷りを行って紙を選び、微妙な色合いを出すために特殊なインクを使うことも少なくありません。時には日本初という印刷技法に挑戦することもあります。コストを度外視したそのクオリティーの高さには、驚くばかりです。
写真、コピー、デザインの三位一体により紡ぎ出される唯一無二の世界観、そして現代の印刷技術の粋を極めた圧倒的な美しさは、「いいちこ」のポスターならではのものです。ぜひ、会場でご覧ください。
(県立美術館主幹学芸員 吉田浩太郎)
令和5年3月11日 大分合同新聞掲載