OPAMブログ
「デミタスカップの愉しみ」寄稿記事【上】
デミタスカップとは、demiが半分、tasseがカップを指すフランス語で、濃いコーヒーを入れる小さめのカップのことです。本展ではそのデミタスカップを2200点以上集めてこられた村上和美さんのコレクションから、約380点を精選し、紹介しています。
デミタスカップの登場には西洋磁器の生産と、コーヒーのヨーロッパへの伝播という主に二つの要因がありました。
17世紀ヨーロッパでは、中国や日本の磁器が大変珍重されました。その当時はまだ、ヨーロッパでは東洋の磁器のような白くて薄い硬質磁器を作ることができなかったからです。
その後、1709年にマイセンで初めて白磁の製造が成功し、18世紀後半にはドイツやフランス、イギリスなどで数々の名窯が誕生して、磁器の生産が可能となっていきました。
一方、コーヒーは17世紀にはヨーロッパに伝わり、都市部にコーヒーハウスが誕生しました。産業革命を経てコーヒーが大衆にも浸透し、19世紀には抽出方法の改良なども相まって多様な飲み方が登場します。このような歴史的背景があって、デミタスカップは19世紀を中心に制作されました。
したがって、デミタスカップのデザインには、19世紀ヨーロッパの美術的な流行を垣間見ることができます。本展で最も多く取り上げているのは、ジャポニスムの影響を受けた作品です。
ジャポニスムは19世紀後半にヨーロッパで流行した日本趣味のことで、日本の浮世絵や陶磁器などがもてはやされ、その色彩、造形感覚は広く影響を与えました。出品作品の中にも竹に雀のモチーフの組み合わせや、七宝つなぎ文などの伝統的な文様を見ることができます。
しかし、多くある日本風の作品の中でも、特に目を引くのが「伊万里写し」の作品群です。17世紀後半に多く輸出された伊万里焼の意匠はよく研究され、デミタスのデザインにも多用されました。またそのような流行を受けて、日本でも技巧を凝らした輸出用のデミタスカップが生産されました。
(県立美術館学芸員 柴崎香那)
令和5年4月21日 大分合同新聞掲載