OPAMブログ
2023年4月28日
寄稿
「デミタスカップの愉しみ」寄稿記事【下】
本展は2部構成となっており、前回ご紹介したのはジャポニスムの影響を受けた第1部の作品群でした。今回取り上げる第2部ではデミタスカップ一つ一つの形や素材、そこに用いられた技法に注目して紹介しています。
所蔵者の村上和美さんは手に入れたカップで一度はコーヒーを入れて飲まれるそうです。こうした楽しみ方は個人のコレクターならではだと思います。しかし、装飾や造りの形状が原因で非常に飲みにくい作品も実はあるのだそうです。このような作品は鑑賞用に作られたと考えることができるでしょう。
一方で、使い勝手を考慮したデザインがなされている作品も紹介しています。
背の高いカップや、ふたの付いたカップ、台付きのソーサーやカップホルダーは全て飲み物をこぼさないための工夫ですが、結果デザインにも変化が生まれ、他のカップと異なる趣が感じられます。
また、本展の来場者が最も驚くのが、カップに用いられる数々の装飾技法です。例えばイギリスの窯元、コールポートが得意としたジュール技法は、小さなカップに繊細なエナメルの盛り上げを施したもので、職人の技術力の高さがうかがえます。
ジュールと並んで多くの人の目を引くのが透かし彫りの作品です。素地を乾かないうちに規則的にくりぬいて、編み目のような模様を作る技法で、中でもイギリスの窯元、ロイヤルウースターのジョージ・オーエンという職人が制作した作品は圧巻の繊細さです。透かし彫り作品は落とす影も非常に美しいので、これらの超絶技巧とともにぜひ会場でお楽しみいただければと思います。
(県立美術館学芸員 柴崎香那)
令和5年4月28日 大分合同新聞掲載