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「朝倉文夫生誕140周年記念 猫と巡る140年、そして現在」寄稿記事【1】
豊後大野市朝地町に生まれた朝倉文夫(1883~1964年)。徹底した自然主義的写実表現で日本の彫塑界をリードする中心的な存在として活躍し、大きな足跡を残すとともに、48年には彫刻家として初めて文化勲章を受章した。
生誕140年に当たる2023年、美術史の文脈における考察に加え、現代に生きる私たち、さらには現代作家の視点を通して朝倉文夫を顕彰。令和の今、朝倉を通して現代、そして未来を生きること、表現すること、芸術とは、社会とは何かを考える契機となることを願い、本展を企画した。
朝倉が過ごした明治・大正・昭和は、260年以上続いた江戸時代が幕を下ろして鎖国が解かれ、諸外国との交流が始まるだけでなく、国の統治や産業、教育、生活様式、そして芸術分野においてもさまざまな影響を受けるなど、イデオロギーや社会情勢が大きく変化し続けた激動の時代でもあった。このように大きなうねりが連綿と続いた時代に、徹底した自然主義的なまなざしと本質をわしづかみにする独自の写実表現で作品を生み出し続け、さらには後進の育成にも力を注いだ彫刻家、それが朝倉文夫なのである。
本展は、朝倉の初期から晩年までの作品41点を展示するとともに、朝倉自身の言葉や当時の写真なども交え、創作活動の全貌を人柄や哲学なども含めて紹介する。さらに現代に生きる私たちにとって、朝倉文夫を通して生きること、表現すること、芸術とは、社会とは何かを考えることはできないだろうかと願った。そこで同じ大分の地に生まれ、拠点として創作活動を展開する美術家の安部泰輔と絵本作家・美術家のザ・キャビンカンパニーの2組のアーティストに登場してもらい、彼らの目を通して捉えた朝倉文夫の新たな姿と魅力を発見しようと試みた。140年のタイムトンネルのような空間の会場には、大の愛猫家であった朝倉が手がけた猫の作品22点も、来場者をナビゲートするように展示されている。ぜひ、会場でご鑑賞、ご体感いただければと思う。
(県立美術館学芸課長 宇都宮壽)
令和5年6月9日 大分合同新聞掲載