OPAMブログ
「朝倉文夫生誕140周年記念 猫と巡る140年、そして現在」寄稿記事【4】
本展は、朝倉文夫の生誕140年を記念して朝倉の功績を顕彰するものであるが、現代の私たちにとって、朝倉を通して、生きることや表現すること、芸術とは、社会とは何かを考えることはできないかと願った。そこで朝倉と同じ大分の地に生まれ、大分を拠点として創作活動を展開する美術家の安部泰輔と絵本作家・美術家のザ・キャビンカンパニーに登場してもらい、彼らの目も通して朝倉文夫の新たな姿や魅力を発見しようと試みた。
安部泰輔は、朝倉の猫の作品を題材に、前後左右と上から見た様子を紙の手提げ袋をひっくり返したようなものに展開する「ネコバッグ」という作品を展示。見る者に新たな視点を与えるとともに、朝倉作品が有する強度や魅力を再発見する仕掛けを作品化した。
展示に加え、アトリウムで参加者が描いた絵を安部が布とミシンでぬいぐるみにし、その二つを展示するワークショップ「しっぽの森」も毎日開催。描かれた絵だけを見るのとは違う鑑賞体験を促そうとするものである。同時に朝倉の屋外彫刻や美術館の収蔵作品、つまり「パブリック彫刻」や「パブリックコレクション」と「公衆、市民」とのやりとりを通じた相互のコミュニケーションによって生み出される「パブリック」性を対峙させようと試みている。
ザ・キャビンカンパニーは、朝倉と彼が生きた時代の全ての事と物を認め、飲み込み、そして未来に向け、歩を進めていこうとする全ての人々を迎える象徴(シンボル)として、横8メートル、高さ3・5メートルの「明日の門」を立ち上がらせた。
これらの現代作家の視点も通して、朝倉の真価を再発見や実感する機会となれば幸いである。ぜひ、会場でご鑑賞、そしてご体感いただきたい。
(県立美術館学芸課長 宇都宮寿)
令和5年7月1日 大分合同新聞掲載