OPAMブログ
「住友コレクション名品選 フランスと日本近代洋画」寄稿記事【上】
本展は泉屋博古館東京が所蔵する住友家ゆかりの洋画コレクションからより厳選した85点をご紹介するものです。その核となるクロード・モネをはじめとした西洋絵画の収集は、第15代当主・住友吉左衞門友純(号・春翠)の時代に本格化しました。
住友春翠は、江戸期に始まった住友を今日に至る近代企業へと躍進させた実業家であるとともに、希代の数奇者としても知られ、茶会や美術品の収集を通して芸術文化への深い理解を示しました。特に古代中国の青銅器のコレクションは世界随一のものとして知られています。
1897(明治30)年、春翠は欧米視察旅行に赴き、各地の美術館や博物館が資産家たちの寄与によって支えられていることに感銘を受けます。帰国後は大阪府に図書館(現大阪府立中之島図書館)を寄贈するなど、文化財を公共の財産とし社会貢献する企業の在り方を目指します。
春翠は今でいう「メセナ」を日本でいち早く行った一人です。パリでは浮世絵を印象派の画家たちへ届けたことで知られる画商の林忠正を介して、モネの絵画を2点購入します。1903(同36)年に神戸・須磨に構えた本格的な洋館には、この2点をはじめ、ジャン=ポール・ローランス、鹿子木孟郎、浅井忠、藤島武二らの作品が客間や大食堂に飾られました。須磨別邸は迎賓館としての役割を果たすとともに、さながら「邸宅美術館」の様相を呈し、訪れる日本人画家たちを啓発しました。
モネから始まった住友洋画コレクションは、有名な松方コレクションや大原コレクションに先駆けたものでした。とりわけ2点のモネは、日本へ最も早い時期に請来されたモネの実作と認められ、歴史的にも重要な作品です。
春翠が始めた美術品の収集は、長男の寛一、第16代当主・住友吉左衞門友成に受け継がれ、西洋・東洋に目を向けた優れたコレクションが形成されます。寛一は大正洋画壇の鬼才・岸田劉生と交わり、麗子図をはじめ優品を手に入れます。劉生の影響もあり、東洋美術に親しんだ寛一は、明末清初の中国絵画も数多く収集しています。友成はピカソ、シャガール、ルオーといったヨーロッパの画家たちに加え、日本のフォービスムにも注目しました。
まとまった形での住友洋画コレクションの展示は九州で初となります。貴重な機会をどうぞお見逃しなく。
(県立美術館主任学芸員 木藤野絵)
令和5年7月7日 大分合同新聞掲載