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「住友コレクション名品選 フランスと日本近代洋画」寄稿記事【下】
本展のメインビジュアルであるクロード・モネの「モンソー公園」は「印象派」が始まって間もない1876年に描かれた作品です。「印象派」という言葉は、74年に開催された美術家たちの共同出資によるグループ展(第1回展)においてモネが出品した「印象、日の出」に対し、記者が侮蔑的に用いた表現がきっかけとなっています。それまで仏画壇の主流を成した遠近法に基づく写実的表現から大きく逸脱し、風景の「印象」をありありと伝えようとするモネの自由な描き方は周囲を驚かせました。
「モンソー公園」は第1回展の2年後に描かれたもので、77年の第3回展から画家たちが自ら「印象派」を名乗ったことを踏まえると、「印象派」初期に当たる貴重な一枚です。会場で隣り合う「サン=シメオン農場の道」(64年)と比べると色の純度が増したことは明らかです。
印象派の画家たちが主に採用した手法が「筆触分割」です。これは絵の具をパレットで混ぜることなく、色彩の純度を保ったまま筆のタッチでキャンバスに載せていく手法です。離れて見ると色が網膜上で混ざり合い、豊かな色彩と光が感じられます。
住友洋画コレクションには、フランスの「印象派」の影響を受けつつも、それに続く「新印象派」の影響をうかがわせる日本人画家たちの作品が含まれます。例えば、岡鹿之助は細かな筆触により画面にもやのような効果を生み出しましたが、モネらの「筆触分割」をさらに推し進め「点描」によって画面を構成したジョルジュ・スーラを想起させます。
斎藤豊作の「秋の色」は渡仏後に描かれた作品で、当時「日本人の目にはかなり激しい色彩である」と評されたほど色鮮やかです。斎藤は19世紀末に画家たちの聖地となったブルターニュ地方ポン・タヴェン村を訪れ、美しい陽光に包まれた同地の風景を記憶にとどめ本作を描きます。紅葉の黄と川辺の青と緑で全体をまとめつつ、補色に当たる紫が陰影を引き立てます。律動感を生む足の長い筆触は、斎藤が最も影響を受けた新印象派のアンリ・マルタンを思わせます。
この他、渡辺与平や橋本邦助らの筆の運びに、モネに始まる「印象」主義や「点描」の影響を感じ取ることができるでしょう。フランス絵画に学び、独自に解釈しながら多様な広がりを見せた日本人による洋画の魅力をぜひご堪能ください。
(県立美術館主任学芸員 木藤野絵)
令和5年7月21日 大分合同新聞掲載