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新聞紙に書く書道展/牧泰濤新聞紙活用大作書道展
世界を投影する照射画のよう
新聞紙に書く書道展・展評
「新聞紙に書く書道展/牧泰濤(たいとう)新聞紙活用大作書道展」が大分市寿町の県立美術館で開かれている。3日まで。入場無料。同館学芸企画課長の宇都宮壽さんの展評を紹介する。
「新聞紙に書く書道展」とは、新聞紙の1ページに好きな言葉や慣用語句を毛筆を使って楽しく書かれた公募作品を一堂に展示する展覧会。小学生から大人まで、県内をはじめ宮城県や沖縄県、さらには台湾からの出品まで合計552点の応募があり、特別賞や優秀賞をはじめとする全作品が展示されている。
会場には、発案者である書道家・牧泰濤が2022年5月18日から24年1月24日までの日々の新聞紙に筆を使って書いた1300枚の書で作られた、縦5メートル、横51メートルのギネス級の大画面作品も、これらの作品と向き合うように展示されている。
牧の作品の23年11月28日までは、新聞紙1ページの中に書かれた文字の中から選ばれた1文字が、23年11月29日以降は新聞紙4ページに四文字熟語や慣用語句が筆で書かれている。
見る者は、書かれた文字だけでなく、自然と新聞紙面にも目が向かい、去る日の出来事や事件などに思いをはせ、記憶を呼び覚まされるが、そこに牧が選んだ毛筆の1文字が重なる。そして、それらが一つの塊となって見る者の脳裏に焼き付けられる。
1300枚の書には、617日間の日々の積み重ねが、言い換えると、1年8カ月の日々の人々の暮らし、思いや行いなどの一つ一つが投影され、連ねられている。このひと連なりの巨大な作品は、さながら、この世界を投影する照射画のようである。
「新聞紙に書く書道展」の作品もそれぞれにユニークである。なんといっても、自由なのがよい。きれいな和紙ではなく、新聞紙なのが気楽でよいのか、さまざまな出来事などが記された紙面だからこそ取り組み応えがあるのか、書の腕前の良否というよりも、思い思いに紙面に向かい合い、その対峙自体も糧としながら、一つの画に仕上げていく。
戻って、牧の作品の最後に「自牧起新風」(自らを牧(やしな)い新風を起こす)との大書がある。米寿を迎える牧の自身へのメッセージであるという。
この機会に、新聞と書が自由闊達に語らう唯一無二の宇宙世界を、ぜひご覧いただきたい。
大分合同新聞 2024年3月1日朝刊掲載