「国立国際美術館コレクション 現代アートの100年」寄稿記事【上】
2022.06.17
抽象絵画、写真など大きく変容 歴史支える作品一堂に
大分市寿町の県立美術館で「国立国際美術館コレクション 現代アートの100年 ハロー、アート!世界に夢中になる方法」が開かれている。同館の担当学芸員が見どころを紹介する。
大阪・中之島に位置する国立国際美術館は、1977年より、国内外の優れた現代美術を発信する美術館として、収集・保管・展示活動を行っています。本展は、その名品・優品を国内各地において紹介する巡回展として、広島県立美術館に続き、当館で開催されています。セザンヌに始まり、抽象絵画の流れを切り開いたカンディンスキーら20世紀前半の作品、ポップアートやミニマルアート、写真や映像など多様化する2000年以降のアートまで、大きく変容した100年余りの美術の流れを72点、四つの章でたどります。
まず第1章では近代から現代へと向かう20世紀前半より、世界的に有名な作家による作品群をご覧いただきます。始まりはセザンヌ。「すべての自然は球、円筒、円すいに基づいて肉付けされている」と唱え、対象を見える通りに写し取るのではなく、構成と技法の妙により、絵画の抽象化への道筋を開きました。短い筆触による塗り重ねや、塗り残しといった独自の画風を取り入れたセザンヌの絵画は、ピカソらによるキュービスムにも大きな影響を与えます。絵画における精神的な要素、またリズムや調和といった音楽的な要素を重視したカンディンスキーの作品とともに、来場者を迎えます。
マン・レイやエルンストらによるシュールレアリスム、藤田嗣治らによるエコール・ド・パリに続き、ニコラ・ド・スタールの絵画、ジャコメッティの彫刻など、国立国際美術館が比較的近年収蔵し、所蔵館以外で初めて展示される貴重な作品が巡回します。
スイスに生まれ、パリで活躍したジャコメッティは、一貫して人間存在をテーマに、何度も作品に手を加え痕跡を重ねることで、空間における人物像の豊かな現れを追求しました。「ヤナイハラI」は、日本人哲学者・矢内原伊作をモデルに制作されたもので、創作上の悩みを抱えていたジャコメッティが、矢内原に向かい合うことで壁を乗り越えていった時期の作品です。作者とモデルの間にある緊張感や信頼関係を今に伝える本作は、国内でも数少ないジャコメッティのブロンズ彫刻の一つです。
この他、20世紀後半の概念芸術に大きな影響を与えたデュシャンなど、第1章では後に続く章を理解する上でも欠かせない、現代アートの歴史を支える作家の作品が一堂に会します。ぜひご堪能ください。
(県立美術館主任学芸員 木藤野絵)
▽「国立国際美術館コレクション 現代アートの100年 ハロー、アート!世界に夢中になる方法」は8月21日まで。入場料は一般1200円、大学・高校生千円。中学生以下無料。
大分合同新聞 令和4年6月17日(金)掲載
ポール・セザンヌ《宴の準備》1890年頃 |
ヴァシリー・カンディンスキー《絵の中の絵》1929年 | アルベルト・ジャコメッティ《ヤナイハラⅠ》1960-61年 撮影:福永一夫 |