「国立国際美術館コレクション 現代アートの100年」寄稿記事【下】
2022.07.01
独自の表現から感覚磨いて
自由にアクセスできる展示構成
本展は、大分会場のみサブタイトルを「ハロー、アート!世界に夢中になる方法」としています。どの作品も制作された時代における最新の「現代アート」であり、今も私たちの感性を刺激してやまないことから、一人一人が心に響く作品を見いだし、解釈の幅を広げることのできる現代アートの尽きない魅力を表現しています。美術の歴史を学ぶ、という視点だけではなく、「いいね」や「好き」をつなぎ合わせて展示を楽しんでいただきたいと考えています。
そこで展示室では、バリエーション豊かな作品をじっくりと楽しむ工夫として、第2章以降はお客さまが各章へ自由にアクセスできる展示構成となっています。先に新しい時代から見る、一度見た作品を改めて見に戻るなど、制作年代や地域を超えて、作品同士を比べながら会場を回ることもお薦めです。「よく分からない」「何だこれは?」と思えたものも、違う見方ができるかもしれません。鑑賞も創造のうち、といわれますが、現代アートは感覚を磨く一つのツールです。難しいと決めつけずに、気軽に足を踏み込んでみてください。
第4章では、海外の影響も受けながらも独自の表現が生まれた80年代以降の日本の現代アートシーンを振り返ります。ゴッホの自画像に扮(ふん)し、アートシーンに衝撃を与えた森村泰昌の代表作や、ポップな感覚で描かれた少女像で人気を博す奈良美智、自己の内面に向き合った内藤礼や塩田千春など、急速に変化する社会における自己認識の方法として制作された作品が登場します。複数の参加者による協働作業を主題とする加藤翼の映像およびインスタレーションによる作品は、国を超えて人と人が交わる今日の対話と理解について考えさせます。加藤が大分展のために構想した、建築家・坂茂の紙管を用いた当館ならではのユニークな展示をご覧いただきます。
現代アートは感覚と解釈の芸術です。自分の尺度を持つことが、時に生活や周囲への見方を変えるきっかけにもなります。アートを通して世界に夢中になる。本展がそうしたきっかけになれば幸いです。この夏はOPAMで新しいアートを体験しましょう。
(県立美術館主任学芸員 木藤野絵)
▽「国立国際美術館コレクション 現代アートの100年 ハロー、アート!世界に夢中になる方法」は大分市寿町の県立美術館で8月21日まで。入場料は一般1200円、大学・高校生千円。中学生以下無料。
森村泰昌《肖像(ゴッホ)》1985年 ©Yasumasa Morimura |
塩田千春《トラウマ/日常》2008年 ©JASPAR, Tokyo, 2022 and Chiharu Shiota |
加藤翼《言葉が通じない》(ラムダプリント)2014年 撮影:坂倉圭一 |