2023年05月05日
OPAM教材ボックス


身近なモノに目を向け、そこに在る“美”を発見する独自の視点を獲得できると、美術作品に出会ったとき、見方、楽しみ方はいっそう膨らむ。
足元の石ころ、朝露の滴、夕焼けをはじめ、草花から空を飛ぶタネなど、私たちの身の回りには、いたるところに“美”は存在する。






山の幸、海の幸が豊富な大分県は、ジオパークにも選定された自然あふれる景観と数多くの遺跡があり、文化的行事も少なくない。こうした大分の<自然><環境><風土><文化><歴史>を美術的視点でとらえると、県全域が美術館・博物館と思えるような魅力にあふれている。
例えば石灰の産地として知られる津久見の海岸に目を向けると、様々な色の石を発見することができる。里山には人と自然の共生が見られ、大分県だけに生息する固有の植物は2種類もあるといい、さらには瀬戸内海の穏やかな海と黒潮も混じりあう。








こうした大分の<自然><環境><風土><文化><歴史>に目を向け、OPAMではオリジナルの教材ボックスを制作している。構想を始めたのは2013年。2015年4月の美術館開館には、全体の形は整ったが、制作は現在進行形だ。
この教材ボックスは全体を4つのボックスで構成し、実物標本をはじめ、様々な素材や道具、あるいは所蔵作品にゆるやかに関連した画像や資料を集めている。

A. ストーン・ボックス〜ミネラルからピグメント
大分県内から採集した土・石をもとにつくった顔料、県内の歴史的遺産で使用されたと推定される顔料、および天然の色材・鉱物顔料による色見本からなり、鉱物マニア必見のボックス。県内の顔料は10,000色を目指し、今も作り続けている。

B. プラント&メディスン・ボックス
染料や顔料に使われる植物、生薬・漢方薬をはじめ生活に密着した植物、タネや葉っぱの造形美や機能美、そして竹工芸や木の器などの素材に使われる植物などに焦点をあてたボックス。藍や紅花など、大分県に自生していない植物は、ワークショップ参加者やサポーターが染色の材料として、自宅栽培を行っている。

C. CCボックス (calcium carbonate 炭酸カルシウム)
石灰岩、大理石、方解石など、建築の材料から画材まで、用途によって名前が変わる炭酸カルシウム。石・貝・卵など身近なモノから鏝絵、漆喰壁(ともに複製)などを集めている。歴史的価値のある鏝絵や鍾乳洞などは、画像で紹介する。

D. マテリアル&テクニック・ボックス
作品と制作工程、素材と技術の関係、そして手技と道具をテーマとして、生活に関わる工芸・デザインからアートまで集めたボックス。近年は視覚と触覚の関係を刺激するため、作品に触る・触れる「Hands on Works」を増やしている。
これらの教材ボックスは、感覚に直接訴えるようなヴィジュアルと内容により、日常に美術があふれていることを実感し、さらに作品鑑賞の際に能動的な視線を生み出すためのきっかけになればと思う。
通常は美術館2階のアトリエ前に展示しているが、ワークショップ、レクチャー等で活用するとともに、将来的には学校へのアウトリーチや貸し出しも視野に入れ、制作は今も続いている。
大分県立美術館 教育普及室 榎本寿紀