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OPAMブログ

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「アートも食も」 県立美術館長の大分ビーナス計画 その五

寄稿 2016.09.03

県立美術館1階アトリウムの展示作品のマルセルワンダース「ユーラシアン・ガーデン・スピリット」=2015年

県立美術館1階アトリウムの展示作品のマルセルワンダース「ユーラシアン・ガーデン・スピリット」=2015年

17日から東京オペラシティアートギャラリー(新宿区)で、「オランダのモダン・デザイン」展が開かれる。この企画展は元々、新生OPAM(県立美術館)が開館前から温め、じっくりと準備していたものだ。共同企画展で、12月には大分にやって来る。
なぜオランダなのか、皆さんはその理由をご存じだろうか?さらに言うと、世界的に活躍するオランダのマルセル・ワンダースがデザインした巨大バルーンを、OPAM1階アトリウムに設置しているのはなぜだろうか?
そして昨年の開館記念展第1弾「モダン百花繚(りょう)乱(らん)『大分世界美術館』」の入り口コーナーで、日田の洋画の巨匠宇治山哲平と、オランダ20世紀抽象絵画の巨匠モンドリアンの「東西対決」となったのはなぜだろうか?
こういう由来、由緒が意外に知られていないのは、ミュージアムの発信者である僕らの責任でもあるが、多くの観客の人は「由来、由緒?そんなものどうだっていいよ。面白ければそれでいいんだよ」と思っている点もあるだろう。それはそれで一理ある。グローバル社会となり、日本には現在世界中の面白いものが集まり、デジタル情報社会の中で、どんどん世界中の情報が手に取り放題だ。
大分に限らず、古くは正倉院の時代から日本はいろいろな外国の文化や文物を取り入れ、それを自国のそれに混ぜ合わせるのが大変うまい。つまり「折衷文化=ハイブリッド・カルチャー」をお家芸としてきた。
オランダは世界に冠たるミュージアム大国だ。アムステルダムには豊かな市民社会だった17世紀を代表する「闇の作家レンブラント」の「夜警」を擁する国立美術館(ライクス・ミュージアム)があり、ハーグには「光の作家フェルメール」の「デルフト風景」が鎮座するマウリッツハイスなど有名美術館の宝庫となっている。
日本とは違い、美術や美術館のサポートはそれこそ国家挙げての一大事業だ。文化大臣による「ミュージアムの今日的振興プラン」なる公文書を読んでいて感心した。記憶だが、まず冒頭に「ミュージアムとは自国の民族が、われわれはどこから来て、何者なのか?
つまり自らのアイデンティティー、それを学ぶ最も重要な文化施設である」とうたっている。いやー、恐れ入った。当たり前のようで、これを堂々と文化大臣が表明しているところがオランダらしい。
外国や欧州がやみくもに良いとも思わないが、やはり見習うべきは見習いたいものと感じる。その言葉を借りると、さしずめ「県立美術館は県民の文化的アイデンティティーを学ぶ最も重要な施設」ということになる。まあ堅いこと言わずに自分の居間として気楽に使っていただきたいことはやまやまだが、今回はちょっと参考までに伝えたい。
そして何でオランダなのかということになる。それは1600年にオランダ船「リーフデ号(オランダ語で「愛」)」が臼杵の黒島に漂着し、人々に助けられたことに関係がある。この日蘭ファースト・コンタクト(最初の出会い)を記念している。その中には後に幕府参謀となった三浦按針ことウィリアム・アダムスや、ヤン・ヨーステンがいたのはよく知られている。
だからOPAMにあるマルセルのバルーンは、ただ単なる「動く、でっかいカラフルなゴム風船」ではなく、オランダから照らした大分県人の文化的アイデンティティーとして、現代によみがえった「神話の再創造」なのである。

新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大芸術文化学科教授

 大分合同新聞 平成28年9月3日朝刊掲載