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「アートも食も」 県立美術館長の大分ビーナス計画 その六

寄稿 2016.09.24

県立美術館3階の「天庭」を描いた新見館長のドローイング

県立美術館3階の「天庭」を描いた新見館長のドローイング

新生県立美術館3階ホールは、「ホワイエ」と名付けられていて、建築家坂茂さんによる今回の建物の一つの見せ場になっている。大きな木造船の内部の竜骨を思わせるような、木組みによるダイナミックに隆起した天井が圧巻だ。床は日田石で張ってあり、ローカル色とグローバルな「どこにもない」不思議で大変魅力的な空間だろう。
ホワイエ西側のコレクション展示室に挟まれる形で空に抜けた、ガラス張りの気持ちの良い庭がある。これを利用して、僕らは「天空の庭」を構想した。
普通なら彫刻家の石や鉄の作品が置かれる場所なのだけれど、ここにあまり重厚でどっしりした彫刻を置いてしまうと、せっかくの「空に抜けた庭」が沈んでしまうと僕たちは考えた。
大きなものは一度置いてしまうと、やり替えがなかなかできず、どんなダイナミックな作品でも長年たてば見飽きられるきらいがある。庭というからには、四季折々と年月でも変化し、成長してもらいたい。
「天庭」というオシャレで軽やか、眺めて不思議なる「現代工芸の彫刻的作品」による「空のお花畑」が生まれた。委嘱したのは現代吹きガラスの第一人者でジャズの音や風を感じさせる高橋禎(よし)彦(ひこ)。「工芸は古来より人間の営みを褒めたたえる言(こと)祝(ほ)」と主張する徳丸鏡子。ミラノと東京を行き来しながらテラコッタ(素焼き)にカラフルな色を吹き付ける礒崎真理子の3人である。
高温度のガラス種を炉からさおで巻き取り、巻いて大きくした緑がかった高橋のガラス玉は、それぞれ小動物のようで表情豊かだ。日中は空や周りの作品、建物を球面ガラスのように千変万化映し出す。
徳丸のハスの花弁から咲き出たユニークな花や茎の塊は、生き生きとさまざまな生き物が氾濫して増え続け、無類の生命力を持つ。
2013年に急逝した礒崎のテラコッタはカラフルな赤と黄、紺色。シンプルかつ不可思議、見たことのない植物の形は豊かな想像力をかきたてる。
プロデュースをしてもらったのは、栃木県の那須で類例ないリゾートと芸術家村を率いている、二期リゾートの北山ひとみさんだ。僕も焼き物とガラス工房を併設した芸術家村「アート・ビオトープ那須」のアドバイザーを務めている。作家だけでなく誰でも泊まれて、読書やぼんやり散歩をして過ごすことができる。大分にもこういう施設がぜひ欲しいものだ。
かつて僕は二期リゾートが営む東京・千鳥ヶ淵のギャラリー冊で礒崎と2人展をやった。彼女はミラノから手のひら大の黄色の花彫刻を400個焼いて送り、二期倶楽部のシェフに頼んで、小さなおいしい焼き菓子を創案してもらった。それを作品とセットにして、「クリスタル・スイーツ」として目玉にした。
礒崎は大分には来たことがなかった。ただ僕は彼女の魂がこのミュージアムを守ってくれていると信じている。
余談だが、僕は本日午後7時56分から日本テレビ系列(TOS)で放送される「世界一受けたい授業」に美術の先生として出演するので、ご笑覧を。

新見 隆(にいみ りゅう)
県立美術館長
武蔵野美術大芸術文化学科教授

 大分合同新聞 平成28年9月24日朝刊掲載